15.定員オーバー
細お屑さまがしょんぼりして、ぶらーっと垂れ下がる。
空に行った天掛さまのことを考えると、とってもさびしい。
ニーノは眉根が寄ってるし、システーナも口を曲げてる。
「天掛さまはもう戻って来られないのですか?」
眉尻を下げたジュスタが、首をかしげて竜さまに聞く。
――分からぬ。戻るかもしれぬ。
細お屑さまがぴこんっと跳ね起きる。
――長いこと戻らぬのじゃ。
「早く帰ってきてほしーな」
「古老さまは、天掛さまのこと、知らないですか?」
大きな古老さまだったら、天掛さまが深い空のどこにいるか、知ってるかもしれない。
――古老は言を明らかにせぬ。
――古老はたいそう大きいゆえ、見えぬ物もあるのじゃ!
「ほほう」
空をまたぐくらい大きな竜さまでも、古老さまから見ると小さいってことなのかな?
――ともかく、海巡のことである。
――うむ。地馳の心配も道理なのじゃ!
「はやくご無事をお知らせしたい」
「そうです!」
ニーノのきっぱりに賛成した。
できれば、海巡さまと地馳さまが会えるようにしたい。
地馳さまは地面の竜さま、海巡さまは海の竜さま。
どこかの海岸で会えたら素敵です!
それで、深い空から、天掛さまも戻ってきてほしいです。
――屑よ。海巡はどれほど遠い?
――広い海の途中なのじゃ。わしではないわしが見たのは、ここから十日は向こうなのじゃ。
細お屑さまは邸とは反対方角の山脈に顔を向ける。
古老さまに会った山脈より、もっと高い山が連なってる。
「山じゃねーか」
――山の向こうなのじゃ!
「十日というなら、我々では二十日はかかりますか」
――うむ。もう大分かかろう。
むむー。いくら空が飛べても竜さまが一日に進める距離とは違うもんね。
「たくさん準備が要りますよ、ニーノ」
ニーノが頷く。
食べ物と水がいちばん大事!
「エーヴェの道具も作らなきゃいけないけど、それは旅の途中でも作れるかな?」
「材料が揃っていれば」
ジュスタにニーノが応える。
システーナが頭をかいた。
「そんで、病人はどうすんだ、ニーノ?」
「お! シスの言う通りですよ!」
見上げたニーノも頷いた。
シューマとナームの病気を、ニーノは診てる。
ニーノが病気の人を放り出すわけないけど、まだ二人とも元気になってない。
ジュスタが気づいたように軽く手を打った。
「それでニーノさん、竜さまと一緒に行かない話をしたんですか?」
「なんと!」
ジュスタの発想にびっくり。
ニーノが竜さまより人間を優先するなんて、あるのかな?
「だが、竜さまは行ってよいとおっしゃった」
「もう終わった話だな。で、どーすんだ?」
システーナがばっさり切って、ニーノが少し考える。
「――ジュスタ、船には何人乗れる?」
「んー……荷物の量にもよりますけど、たくさん人が乗ることを考えて作ってないので」
「テーマイの分が減る」
「食料と水が増えますよね」
ジュスタは計算してるみたい。
「頑張っても五人ですね。ときどき竜さまにつかんでもらって、船の高さを維持しないといけないかな」
「そうか」
ニーノは眉間にしわを刻んでる。
ジュスタはにこっとした。
「でも、海に着いたら船は浮きますから、重い物も運べますよ」
「……おお、船です!」
ずっと空を飛んでたから忘れてたけど、船は海に浮くんだ。
「ちゃんと船だからね」
ジュスタがちょっと得意げに笑った。
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