14.幼なじみのはなし
すこし遅くなりました~!
準備の話になる前に、すかさず手を上げた。
「はい! エーヴェ、質問ですよ!」
――なんじゃ?
細お屑さまが、ぴこんっと伸び上がる。
「地馳さまと海巡さま、きょうだいですか? 竜さまには、きょうだいがいますか?」
竜さまから親の竜さまの話なんて今まで聞いたことがないけど、きょうだいは同じ親竜さまから生まれた竜さまってことなのかな。
――竜は皆、きょうだいなのじゃ!
「おお! みんな親の竜さまが同じですか?」
……ひょっとすると、古老さまがみんなの親竜さまなのかな?
わくわくしたけど、細お屑さまは疑問符みたいにたわんだ。
――親の竜? そんなものは知らんのじゃ!
――きょうだいに親は関係ない。
「お?」
竜さまが金の目をぱちりとする。
――竜は卵を産んで飛び去る。卵があるゆえ親はあるが、親は重要でない。
――竜は一人で育つのじゃ! 影と同じじゃ!
「なんと!」
卵から出たばかりの小さな竜さまがどうやって大きくなるのか、とっても心配です。
――いや、影ほど一人ではなかった。
のんびりした竜さまの物言いに、細お屑さまはぴこんぴこんする。
――おお! 山の言う通りじゃ! 以前は皆の声が聞こえたのじゃ。生まれ落ちれば、竜は声が聞こえるのじゃ。
細お屑さまが言ってるのは、きっとまどろみどきのことだ。
今はダメだけど、昔は全部の竜さまがつながってた。
――竜はまどろみどきに入る。常に互いが分かる。
――ゆえに、わしらは眷族なのじゃ。きょうだいなのじゃ!
「なるほど!」
竜さまと細お屑さまの顔を交互に眺めてたお骨さまが、ぱかっと口を開けた。
――わしと友も、きょうだいなのじゃ!
竜さまは頷く。
――うむ。友とわしはきょうだいである。しかし、地馳の言うのは小さい意味じゃ。
――小さい?
――うむ! 生まれた時期の近い竜が、互いにきょうだいと呼び合うのじゃ。
「ほう!」
「つまり、お二人は年が近いんですね」
ジュスタがにこにこしてる。
「地馳さまと海巡さま、幼なじみですよ!」
――二人でない。三人じゃ! 一人は今、おらぬのじゃ。
細お屑さまの鋭い訂正。
びっくりしたら、ジュスタとシステーナとお骨さまもびっくりしてた。
「お骨さまも知りませんでしたか?」
――わしは全然知らんのじゃ。
――もとは地馳、海巡、天掛の三人である。
「とてもよいお名前です」
ニーノが穏やかな声を出す。
細お屑さまは得意げにぴこんぴこんした。
――天掛はそれはそれは長い竜なのじゃ! 空のあちらの端からこちらの端まで届くのじゃ。いつもゆっくり空を飛んでおるのじゃ。
――地馳は地を行き、海巡は海を渡る。天掛は二人の間を飛ぶ。
「……すてきですよ!」
地馳さまの大きさを考えると、きっと三人ともとっても大きい竜さま。
……偉大です!
――エーヴェの言う通りじゃ! まるで虹のようなのじゃ。
空を横切る大きな竜。
お影さまが虹を竜さまだと勘違いしてたけど、本当にそんなスケールの――もっと大きい竜さまがいたんだ。
前の世界の神話で聞いた竜みたい。
「今はいませんか?」
とっても会いたいのに、残念。
「どこにいんだ?」
――高く深い場所である。
――人が追い立てたのじゃ。
「なんと!?」
竜さまが、ふすーっと鼻から息を上げる。
――世界が滅ぶ前じゃ。
――昔なのじゃ! 人がうるさいゆえ、地馳は凍土で足を留め、海巡は底深く潜り、天掛は空の高くへ上ったのじゃ。
――高く高く上るうち、天掛はこの星から外れてしまった。
――外れる?
お骨さまがカタッと頭を揺らす。
――友よ。空ははじめは高くあるが、あるときから深くなる。深い空では竜のあり方は変わるという。
――アマ……はあり方が変わったのか?
――うむ。
――深い空にいてもしばらくは、まどろみどきで声が聞けたのじゃ。しかし、だんだんと遠くなり、今はすっかり聞こえないのじゃ。
細お屑さまの声の後、みんなの間からも声がなくなった。
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