12.声がない
気がついたら少し更新時刻すぎてました……
お腹が低く震える感じに、瞬いた。歩き回る地馳さまの地響きとは別に、うなりが空気に満ちてる。
……地馳さまがうなってる?
ペードとカウが顔を真っ青にしてマレンポーの側に寄った。マレンポーも表情が硬い。
遠くのアミョーの巣からいっぱいとげとげが飛んでくる。だんだん黄色くけぶってきた。たくさんのアミョーが地面をひっかいて、砂煙が起こってるんだ。
「……地馳さま、怒ってますか」
低声で隣のジュスタに聞く。
「う、うん。そうかも?」
ジュスタは困った雰囲気で眉を下げた。
――なんとも不快な波なのじゃ! 地馳、やめるのじゃ!
細お屑さまがぱたぱたはためいて怒るけど、地馳さまは気づいてないみたい。
うなりはひどくなって、体がビリビリする。
指が勝手に震えてる。
――わしのきょうだい! わしのきょうだい!
*
ヴァーアアアアァアァ!
突然響いた咆哮にひっくり返りそうになった。
地馳さまの歩く輪がゆがんで、大回りになる。
竜さまを振り返ると、白銀のたてがみをきらめかせて、首と頭をぶるぶる振るってる。
――騒がしい! 用件を言うのじゃ。
丘の向こうから、白い骨がぴょこっと顔を出した。
――友、用件はミメグリに会うことなのじゃ。
お骨さまが愉快そうに顎を噛み合わせながら、竜さまに教えてあげる。
竜さまがぶふーっと鼻息を上げた。
――む? そうであった。うっかり叫んだのである。
――友の咆哮は大きいのじゃ。
――驚いたぞ。山は小さいのに、声が大きいぞ。
ほのぼのしてる竜さまとお骨さまの近くをのしのし歩きながら、地馳さまが何度も舌を出し入れする。
……びっくりしたときのクセかな?
――地馳よ! 海巡がどうしたのじゃ?
――うむ。わしのきょうだいぞ。
細お屑さまの声が今度はちゃんと地馳さまに届いたみたい。
――エーヴェがまどろみどきに到ったゆえ、全ての竜がつながったぞ。
――うむ! 古老は偉大なのじゃ!
細お屑さまが特別嬉しそうにぴこんぴこんした。
――わし、海巡と話すつもりぞ。わしのきょうだい! だが、声がなかったぞ。
――ふむ。確かに海巡の声はなかった。
――わしはミメグリを知らんのじゃ。
――骨は、骨になる前は海巡を知っておるのじゃ。いろいろ忘れたのじゃ。
……細お屑さまは寛大です。他のお屑さまだったら、お骨さまが阿呆だと罵倒してます。
お骨さまはぱかっと口を開けた。
――なんと、わしは忘れたのじゃ。
地響きで体が跳び上がる。
――海巡はきょうだい。わし、忘れぬぞ。
――うむ。たしかに奇妙である。
竜さまが金の目をぱちぱちする。
――古老のおかげで、あのとき久方ぶりに眷族皆がつながったのじゃ! 声がないのは奇妙なのじゃ。
竜さまたちの感覚は謎だけど、お影さまが古老さまに会いに来るくらいだから、きっと特別な何かが起きてたんだな。
……世界中の竜さまがつながるなんて、とっても素敵な響きです。
――海巡は寝ておったのか?
――友よ。寝ていても声はある。
――その通りじゃ。眷族になったばかりの影の声も、皆聞いたのじゃ。
竜さまたちのいう「声」も人間の声とは違うみたい。今、話してる声も頭に響いてる感じだもんね。
――心配ぞ。わし、心配ぞ。
体中から蒸気を吹き上げて、地馳さまが一唸りした。
「竜さまが心配……」
近くから聞こえた呟きに目を向ける。カウが地馳さまを凝視してる。
地馳さまの座のみんな、衝撃を受けてるみたい。
思わずニーノを見上げた。
やっぱり眉間にしわが寄ってる。
……りゅーさまに心配事があったら、みんなショックですからね!
――分かった。地馳の代わりに海巡に会おう。
おお! さすがりゅーさまですよ!
――山、会うぞ! 山、会うぞ!
地馳さまの足取りが、いっそう力強い。
――わしのきょうだい! 海巡ぞ!
……海巡さま。
ちょっと心配だけど、これは新たな竜さまに会う予感です!
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