11.翌朝
一日遅れです! ちょっと続いてるので気を付けます!
お腹いっぱいになって踊って、焚き火の傍でうとうとして、帰ろうと手を引かれ、歩いた。
目が覚めると、寝台の上。
すっかりお腹が減ってる。
光の感じを見ると、もうお昼過ぎみたい。寝台から抜け出して、あくびをしながら食堂へ向かった。
「おはよー!」
声をかけたけど誰もいない。隅を見たけど、ペロもいない。
お昼だから、みんな自分の仕事に行ったみたい。食べ物と飲み物を探して台所に入ったとき、食堂の入口にジュスタが顔をのぞかせた。
腕でぴこんぴこんしてるのは細お屑さま。
「おはよう、エーヴェ」
――エーヴェはやっと起きたのじゃ。
「ジュスタ、細お屑さま、おはよーございます!」
――旅から戻ってよく休んだのじゃ! もう元気なのかや?
「はい。エーヴェ、元気ですよ! お腹空きました」
「朝食が鍋に残ってるよ。あとは棚にパンだね」
「はい!」
平たいパンを皿にのせて、鍋の底に残ったおかずをかき集めて器に盛る。干し野菜の甘辛ソース煮。野菜の種類は一つだけ。きっと昨日のごはんにいろんな材料を使ったせいです。カップを取って、水も樽から少し注ぐ。
「ペロ、もうどこかへ行きましたか」
「うん。お屑さまによると、鉢がないから日陰を移動してるらしい」
――わしではないわしが見たのじゃ。
……うーん、お屑さまネットワークは便利です。
ジュスタもカップに水を注ぐと、食堂のテーブルに着く。古老さまへの旅でなくした道具のうち、今あるものが何か、どれをもう一度作らなければいけないか一緒に確かめる。
「リュックサックがいちばん急ぐかな? ニーノさんに余り布があるか聞いてみよう」
羽布もそうだけど、着る物はたくさん工程を経て作るから、代わりはすぐに手に入らない。中でもリュックはどこかに行くときに持てる荷物が増えるから、私にはとても大事。
ジュスタが話すのをもぐもぐしながら聞く。
「ペロの鉢もなくなりました」
「うん。まだツボがあってよかったけど、ここは乾燥する場所だから、早く作りたいね」
――わしは、ジュスタが鉢を作るところを見るのじゃ!
細お屑さまは興味津々でぴこんぴこんする。
「うーん、船の炉はちょっと小さいんですよね。道具の直しを主に考えて造ったから」
「鉢は作れませんか?」
「温度を出せないわけじゃないから、なんとかできると思うけどね」
「ジュスタならできますよ! エーヴェ、手伝います」
ジュスタの蜂蜜色の目が、ふわっと融ける。
「ありがとう。でも、エーヴェは自分の物からがんばろう」
「おお、そうでした」
新しいリュックサック。ニーノに布のことを聞く。
やることを頭に思い浮かべてたら、他のことも浮かんでくる。
……あれから、アミョーのヒナはどうなったかな?
たった四日間だけど、卵からかえって一日目と二日目でも全然ちがったから、きっとずいぶん大きくなってる。想像しながら、おかずの器をパンでぬぐったとき、細お屑さまがぴこんと伸び上がった。
――地馳が来るのじゃ。
地馳さま。
アミョーの子育て期間中、アミョーたちの近くや遠くをずっと走ってるはず。
「アミョーのヒナたちを見に来ますか?」
ちょうどヒナのことを考えてたから、地馳さまとおそろいで嬉しくなる。
――山と山の付き人に会いに来たのじゃ。山のところに行ってみるのじゃ。
「りゅーさま?」
「じゃあ、ニーノさんにも報せます」
――ニーノのところには、わしではないわしが二人もおるのじゃ。とうに伝わっておるのじゃ。
「はい。伺いました」
腰を浮かせかけたジュスタから、食堂の入口へ視線を移す。
ニーノが来た。青白磁の冷たい目がこちらに向く。
「食事は済んだか?」
「はい!」
「では行くぞ」
「はーい」
後ろの「はーい」は、ジュスタと声がそろった。
船から出て眺めると、草原に砂煙が見える。まだ遠い。でも、移動する間に、どんどん近づいて来る。
地馳さまと別の方角から、アミョーに乗ったマレンポーたちもやって来た。
「マレンポー、カウ、ペード!」
「こんにちはー」
「竜さまが来るぞ!」
「お屑さまから聞きました」
合流して、竜さまのところに向かう。船から離れた丘の向こうに竜さまの顔が見える。最初は目をつぶってたてがみを風になびかせてたけど、気配に気づいたのかぱちりと目を開けてこちらを見た。
日の光の中で見ると、金の瞳がとっても明るい黄色に見える。古老さまとあった草原の黄色い花を、ちょっとだけ思い出した。
「りゅーさまー!」
――む。エーヴェ、元気になったか。
「はい! 元気ですよ!」
ぴょんぴょん跳ねて、アピールする。
――何よりである。
――山よ、地馳が来るのじゃ。
「お山さまに何かご用があるみたいです」
マレンポーの言葉がかき消えそうなくらい、地響きが近づいてきた。
地馳さま、何度見ても山が動いてるみたい。竜さまはみんなに「山」って呼ばれるけど、地馳さまのほうがずっと大きい。
体のあちこちから噴き出す白い煙や、口からちろちろのぞく舌が見えた。
「りゅーさまー!」
カウとペードが手を振る。マレンポーたちは地馳さまが見えると、やっぱり一段と嬉しそう。
――うむ。わしぞ。
どしん、どしんと体が浮きそうな震動が来る。
地馳さまの勢いで、竜さまの白いたてがみがあちらこちらにあおられてる。
――山よ。お主ら、船で来たぞ。
――うむ。
どしんどしん地面が鳴って、ぶわっと蒸気が噴き上がっても、竜さまたちの声ははっきり聞こえる。
……竜さまは偉大です!
――山ら、飛んできたぞ。
――友と飛んだのじゃ!
……お? これはお骨さまの声。
さっきは姿が見えなかったけど、離れたところにいるのかな? どこかに隠れてるのかも?
――飛べば、海を越えるぞ。
――それも、できる。
――地馳は海は越えられぬのじゃ。
細お屑さまが口をはさんだ。
――山、海巡に会え。わしのきょうだい。
――うむ?
地馳さまが、どしんと方向転換した。
――わしのきょうだい。声がせぬぞ!
地馳さまは竜さまの周りをぐるぐる回り始める。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。