14.ほかほか一休み
ジュスタを待つのに飽きてきて、システーナと湖でばちゃばちゃする。
竜さまたちは足湯だけど、ントゥには十分深い。私だったら、肩の辺りまで。お風呂にはちょっと深い。
「お骨さま、布を干しておきましょう」
足湯せずに岸で立ってたニーノが、お骨さまに声をかけた。お骨さまはきょときょとと羽を眺めて、首を傾ける。
――飛ばぬのか? 羽は雨でも平気なのじゃ。
羽をバタバタして、胸を反らしてる。お骨さまは、水を弾く羽が誇らしいのかも。
「竜さまがお食事に出られるので、ここでしばらく休みましょう」
――友は食事なのか?
お骨さまが羽を動かすのをやめて、首をかしげた。
――うむ。あしゆをしたら、腹ごしらえに行く。友は皆と休むがよい。
竜さまはふわーっと大あくび。
――おお、わしは腹ごしらえしないのじゃ。皆で遊ぶのじゃ。
お骨さまがまた、羽をばたばたさせた。
「わーい! エーヴェ、お骨さまと遊びます!」
湖の中で跳ねると、服の中で水がざぼんざぼん音を立てる。
――おお、エーヴェと遊ぶのじゃ。
お骨さまが、後肢で立って跳ねたから、周りに水しぶきが飛び散った。
システーナは大喜びで水しぶきを浴びてる。竜さまは水しぶきが飛んできても気にしてない。足湯が気持ちいいのかも。よく見ると、竜さまの後ろでテーマイがのんびりしてる。ちょうど水しぶきが来ないところで、テーマイ、めざといのです。
「では、羽の布をお借りします」
ニーノがさっと腕を振るって、お骨さまの羽の布を回収した。泳いでたントゥがお骨さまの背骨に乗って、水を弾き飛ばしてる。
「貴様ら、服の替えはあるのか」
「お?」
「あるわけねーよ」
げらげら笑うシステーナに、ニーノが冷たい目を向けた。
このままだと、服から水をこぼしながら、船に戻ることになる。
「……あ、ジュスタです!」
船に視線を向けたら、ジュスタが来るのが見えた。両手を大きく振る。ジュスタは、片手を振り返した。
「シスさん、エーヴェ、水浴びかい?」
「温泉ですよ! みんなで足湯です!」
もう飛び込んじゃったけど。
「ぬるーい風呂だぜー」
――ぼがっ! 湯な、ぼがっ!
お屑さまも何か言ってる。
「ジュスタもどーぞ!」
もうすっかり水遊びになってる足湯に誘うと、ジュスタはにっこりしたけど、思い出したようにニーノを見た。
「ニーノさん、ペロを見ましたか?」
「見ていない」
「え? ペロ、いませんか?」
ジュスタは手にしたガラスの鉢を掲げた。ペロのだ。
「甲板にあったんだけど、ペロがいなくて」
「なんと!」
ペロを最後に見たのは、いつだっけ?
たしか、甲板に上がる階段で扉が開くのを待ってたけど。
「あ! もしかして、甲板に出て吹き飛ばされちゃったかもしれません! おくずさま、知ってますか?」
――水っ、ぼがっ! 飛ば、ぼがっ!
慌ててお屑さまの腕輪を拾い上げる。
――水玉は飛ばぬのじゃ! 山よ! 水玉はどこにおるのじゃ!
お屑さまは、水から出ると素早く普段のしゃべり方に戻る。
――む?
竜さまが片目だけ、ぱちりと開いた。
「りゅーさま、ペロがいなくなっちゃいました!」
――うむ? ペロは船におる。
「え?」
ジュスタがきょとんと目を見張る。
「俺は見かけなかったんですが」
――うむ。……船におるが、細かい場所は分からぬ。
竜さまは大あくび。やっぱり眠いみたい。
……足湯が効いてるのかな?
――水玉は山にゆかりの者じゃ! 山が船におると言うなら、船におるのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこんする。
「おお、そうですね!」
「じゃあ、心配要らないかな?」
ジュスタと顔を見合わせる。
「りゅーさまが言うならだいじょーぶだぜ。ジュスタも風呂入っていけ」
「そーです! ニーノもです!」
ニーノにも「どうぞ」と手で指し示した。でも、冷たい視線が返ってきただけ。
「そろそろ食事が必要だ。満足したら、船に戻れ」
まとめた羽布を担いで、ニーノは船に戻ってしまった。
「じゃあ、俺はお風呂にしよっと」
ジュスタは岸にガラスの鉢を置いて、湖に飛び込んでくる。
――足湯なのじゃ!
――ジュスタもあしゆなのじゃ。
お骨さまが水の中でうぉっほっほする。ントゥはすばやく肩の辺りまで移動して、バランスを取った。
――うむ。
竜さまは長く鼻息を吐く。尻尾でゆらゆらっと水面を薙いでから、目を閉じた。
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