9.お決まりの
一日更新がずれました!
元気がわいたと同時に、お腹が鳴った。
ニーノがくれた謎の甘いものの力も、出迎えの間に使い果たしたみたい。
「飯もあんぞー!」
「おおー!」
システーナの笑顔に期待がふくらむ。
古老さまに会う前の食事も、干した木の実と水だったから、トウモロコシパンを思い出しただけで口の中がよだれでいっぱい。
「お、ペロも聞きつけてきたぜ」
カウがいつも持ってる棒の先でちょっかいかけようとしたけど、ペロは俊敏によけて、ジュスタとシステーナの足下を一周し、ツボに入った。
……ニーノがいなくなってほっとしたのかな?
ペードが首を傾ける。
「どういうこと?」
「運んでほしーってこったろ」
「はーん、なるほど」
システーナがペロ入りツボを小脇に抱え、竜さまのほうへ進み出る。竜さまはお骨さまと遊ぶお影さまを眺めて、たてがみをゆらゆらさせてる。遊ぼうかどうしようか考えてるみたい。
――む? シス、ペロはツボに入ったか。
「そーそー、連れて行きます! 竜さま、また明日!」
「りゅーさま、おやすみなさーい!」
システーナと並んであいさつすると、竜さまは金色の目を細める。
――うむ。ゆっくり休むとよい。
ジュスタやマレンポーたちも、手を振ってあいさつした。
「ほれ、おちび」
屈んで背中を向けられて、しがみつく。システーナはストストに声を投げた。
「あたし走っから、ジュスタでも乗っけてけよ」
「え、俺ですか?」
「おお、そうです! ジュスタは走って来ましたよ」
――シス、競争ぞ!
意気軒昂に羽を開いたストストに構わず、お先、とシステーナは走り出す。
――シス、先行くぞ! ジュスタ、急ぐぞ!
「ええー? 走るから、ストスト先に行っていいよ」
「ジュスタはアミョーが怖いんだよ」
からかいみたいなペードの言葉が聞こえた。
そこからはもう耳元をびゅうびゅう風が過ぎていく。システーナが跳躍すると、一気に船が見えてきた。
急にシステーナが笑う。
「あっははは! おちびの腹が鳴っから、あたしの背中が腹減ってるみてー」
「シスなら背中にお腹があってもおかしくないですよ!」
背中とお腹で二倍お腹がすくかもしれない。
……あれ? どういうことだっけ?
首をかしげる間に船の前まで来て、システーナがぽーんと跳ねた。
*
甲板に着地するやいなや、システーナの背中から飛び降りる。
「エーヴェ、帰りましたー!」
細お屑さまもテーマイもペロも一緒にいたから寂しくはなかったけど、大きな船に入るときは幸せ気分と安心感に包まれた。
「止まれ」
「はい!」
冷たい声で、足が止まる。
甲板から船に降りる階段の下で、ニーノが待ってた。いつもはハーネスを着けるスペースに、水を張った小さな桶と着替えが用意されてる。
「お! エーヴェ、分かりましたよ」
「ここは水がない。薬湯代わりだ。体を拭いて、着替えろ」
「はい」
「終わったら、食堂へ来い」
「はい」
邸にいるときと同じ。ニーノは準備万端です。
「マレンポーたちと一緒に外で食べっから、あたしは先行ってんぜ」
甲板からのぞき込んだシステーナが、手をひらひらして、行ってしまった。と思ったら、すぐ戻ってくる。
「忘れた」
ごとっとペロのツボが階段の上に置かれる。
システーナは今度こそいなくなった。
ナイフ付きのベルトを置いて、服を脱いで、布を水に浸して体をふいて、頭をふいて、服を着替える。お腹は空いてるけど、清潔になると少し力が出る。
ニーノが去ったのを確信したのか、ペロが階段を下りてきた。
ツボだとやっぱりちょっとバランスが悪いみたい。よろよろしてる。
「ペロ、一緒に食堂に行きますよ! きっと水もあります」
脱いだ服や桶を放って、食堂へ向かう。さいわいペロは、桶の残り水に気づかずについて来た。
「ニーノ! 来ました!」
「座って待て」
席に着こうとして、やっぱりやめる。キッチンの入口まで行って、のぞきこんだ。
「エーヴェ、ペロに水をあげたいですよ」
顔色一つ変えずに、ニーノは大きな器に水を注ぐ。受け取って食堂を振り向くと、ペロは普段寝るスペースに移動してる。
「ペロはかしこいです」
器の水を壁際のツボに注ぐ。
久しぶりにたっぷり水をかけられて、大満足。ぐんぐん吸収してるから、ペロもきっと大満足。
……これで、お影さまの手の中で縮んだ分は戻ったかも。
「エーヴェ」
ニーノの声。ぴょんぴょん跳ねて近づき、器を返す。
すると、カップを渡された。
予想通り。もう鼻が慣れちゃったけど、甲板から入っただけでにおいがしてた。
「……苦いですか?」
「苦い。飲め」
「むー」
どこかから帰ったら、ニーノの薬。
お風呂ができないから、飲むしかありません。
船に戻ると途端にニーノ率が増えますね。
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