8.第二出迎え
ひぃっ! 遅くなりました!
飛んで行くニーノを見送ってたら、草原に砂煙があるのが見えた。
「アミョーです!」
「そのようだね」
ジュスタと一緒にじっと耳を澄ます。
だんだん賑やかな声が近づいてきた。
みゃうみゃう! みゃう!
「おちびー!」
混ざった声に、思わず跳び上がった。
「シスー!」
――おお、エーヴェぞ!
「おお! ストストー!」
先頭のアミョー――ストストは、みるみる近づいた。背中にシステーナを乗せてる。
システーナは完全にアミョーを乗りこなしてる。ペードやカウより先に着いて、システーナが地面に降りたと思ったら、体が宙を舞ってた。
「ぉひょう!」
「おちび! 頑張ったって? すげー!」
軽々と持ち上げて、ぐるぐる回されながら、きらきらしてるサーモンピンクの目を見る。
「そうです! エーヴェ、頑張りました」
蒸気機関みたいなシステーナに抱きしめられると、胸がぽかぽかになる。
「あれ? なんか軽くなったぞ?」
首をかしげられて、衝撃を受けた。
真っ青になる間に、みゃうみゃうに取り囲まれ、マレンポーやカウやペードも降りて来た。
「くっそ、システーナ速い!」
カウが悔しそうに唇を歪めてる。システーナがぺかっと笑うから、ちょっと誇らしい。
「おかえり、エーヴェ!」
「全お屑さまがすげえうるさかった! 大変だったなー!」
「無事でよかったです、おかえりなさい、エーヴェさん」
システーナが三人の中に降ろしてくれた。背筋を伸ばして、みんなの顔を見る。
「エーヴェ、帰りました! それで、マレンポー! ジュスタ! エーヴェ……エーヴェ、謝りますよ」
「どうしたの、エーヴェ?」
「ジュスタが作ってくれた道具、マレンポーに分けてもらった羽布、埋めちゃいました」
ロデットに追われて捨てた物たちのことを思い出すと、また鼻がツンとしてくる。眉尻を下げたジュスタと対称的に、マレンポーはふわーっと笑顔になった。
「とんでもない! エーヴェのおかげで私はとっても豊かになりました」
きょとんとして涙が浮かびそうになった目を瞬く。
「……豊かですか?」
「ええ、ありがとうございます」
「――エーヴェ、よく分かりません。エーヴェは分けてもらった羽布を大事にして、ちゃんと返したかったですよ。羽布は作るのがとても難しいです! アミョーの羽ももったいなかったです」
お別れするのが残念だった。
ジュスタが頭をなでてくれる。道具を大事にするジュスタは私の気持ちが分かるんだ。今回はペロの鉢もなくなっちゃった。ジュスタはこれからきっと忙しい。
「エーヴェさんにとって、羽布が価値ある物だったのはとても喜ばしいことですね。惜しまれて、布もきっと喜んでいますよ」
「むむ……」
羽布はやっぱり埋もれてるより、使ってもらえるほうが嬉しいと思う。置き去りにしてしまった道具たちを思い出すと、どうしても気持ちが落ち込む。
「……でも、マレンポーさんの言う豊かは、俺の知ってる豊かと違うみたいだ」
「おお、ジュスタ、そうですよ!」
「え? ああ、豊かでは正しくなかったでしょうか? 気前が良いといえば伝わりますか?」
マレンポーがまた目を丸くして、興味深いきらきらを発し始めた。
「えっと、気前が良いだとちょっと分かります」
「何かを貸したり、あげたりすることは私にとってはとても幸せなことです。人に何かをしてあげることは私を豊かにします。そのことで相手が幸せであればもっと私は豊かです。だから、エーヴェさんがより不安のない状態であれば、私はより豊かですよ!」
「ふむ?」
「マレンポーはちょっとよく分かんないんだよね。人に何かしてあげて、何も返されないほうが豊かってよく言ってる」
ペードが不思議そうな顔で言ってる。
マレンポーの前世はそういう世界だったのかな? それとも、アミョーの教えかな? ちょっと想像できない。
「お屑さまから聞いてるから、エーヴェの気持ちはちゃんと知ってる。よく我慢したね」
ジュスタがしゃがんで穏やかな声をかけてくれた。またちょっと泣きそうになる。
首にすがって、道具と別れた寂しさを分けた。
「あとで、ニーノにも謝りますよ」
「そうだね。いろんな物が去ったから、また新しく作ろう。エーヴェも手伝ってね」
「――はい!」
ジュスタに背中を叩かれて、次に作る物のことを考える。
ちょっとだけ元気がわいた。
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