7.第一出迎え
切り所が分からず、ちょっと短めです。
ニーノが急に眉根を寄せて、背後を振り向いた。
細お屑さまがぴんっと伸び上がる。
――ぽ! シューマなのじゃ。わしではないわしなのじゃ。
「お?」
ニーノの視線を追うと、地面に人が寝そべってた。よく見ると、人影から伸びたお屑さま(あれは長お屑さま!)がぴこんぴこんしてる。
「おくずさま!」
――なんじゃ?
――わしなのじゃ!
細お屑さまと長お屑さまが同時に答えてくれた。
……むむ。おくずさまがたくさんいるのは大変です。
「――すみません、ニーノさん!」
ニーノと一緒に長お屑さまのほうへ寄る間に、向こうから人が走ってくる。慌ててるのに、やっぱり穏やかな声。
「急に寝台を飛び出しちゃって……」
「ジュスタです!」
「ああ、エーヴェ、おかえり」
蜂蜜色の目が笑ってる。駆けつけて、がっしりした体にしがみついた。
ジュスタには、伝えることがたくさんある。
「お、お……くず、さ……」
「わ!」
地面から声が聞こえて、ぎょっとした。さっき見た人影が、傍に寝てる。
……寝てるというより、潰れてる?
「――動くな」
「はい!」
「シューマに言っている」
ニーノの命令が短すぎて、いつにも増して怖い。
ジュスタを手招きして、耳元で囁く。
「ニーノ、怒ってますよ」
「シューマさんはまだ治ってない。なのに、飛び出しちゃったからね」
ジュスタが囁き返した。
たぶん、シューマはニーノの特性で地面に押さえつけられてる。でも、ずりずり地面を這って、こっちに近づいて来る。
……怖いです!
――まったくシューマは分からぬのじゃ! わしはここにおるのじゃ!
――わしに会いに来たのじゃ。簡単なことなのじゃ。
――わしではないわしでもわしはわしなのじゃ! わしはここにおるのじゃ!
――わしではないわしでもわしはわしじゃが、わしはわしなのじゃ。わしはここなのじゃ!
長お屑さまと細お屑さまの渦を巻いた話に、あんまり耳を立てないように気をつけて、這い寄るシューマに細お屑さまが着いた腕輪をそっと渡す。
ニーノが長く息を吐いて、軽く手を払った。
「おくず、さま」
シューマが大きな体を丸めて、細お屑さまと長お屑さまを抱えこむ。
――ぽ! つかむでないのじゃ!
――動けぬのじゃ。
当然、お屑さま二人は、わあわあ文句を言った。
……お屑さまには、人の情緒とかないですからね!
突然、腕に鳥肌が立って、おそるおそる隣のニーノを見上げた。
氷の目がシューマに向けられてる。
ぴゃっとジュスタの後ろに飛び退いた。
……きっとペロも竜さまの爪の裏で固まってます!
「危ないですよ、ジュスタ! 危険です!」
「う、うん。シューマさん、部屋に戻ろう?」
ジュスタがシューマの肩をとんとんと軽く叩いた。
「う……もど……もど」
ごにょごにょ口の中でつぶやきながら、シューマは立ち上がった。一緒に歩き出そうとしたジュスタを、ニーノが止める。
「私が行く」
ジュスタの答えを待たないで、竜さまたちに向き直った。
「竜さま、お骨さま、お影さま。それでは、失礼いたします」
――うむ。
――うむじゃ!
お影さまは二人の先輩竜を眺めてから、ニーノを見る。
……ぼっ
三様の応えに頭を下げて、ニーノはシューマの首をつかむと飛んで行ってしまった。
「ニーノ、こわいですよ!」
思わず叫ぶと、ジュスタが笑う。
……シューマ、お屑さまを抱えててよかったです。
お屑さまが近くにいなかったら、ニーノが有無を言わさず、特性で寝台まで吹き飛ばしてたかもしれない。
「こわいですよ!」
――ニーノはこわくないのじゃ。
――うむ。
お骨さまがかたかた顎を鳴らすと、竜さまが重々しく頷いた。
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