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6.たっぷりのお日さまのにおい

 途中からお影さまの足の中に戻って、空を進んだ。ペロはツボに入ってるし、ニーノが水筒をくれたし、さっきよりずっと安定して座る。


「ゆっくり飲め」


 ニーノに鋭く指摘されて、ちびちび水を口に運んだ。

 食べ物がおいしくて痛くなった顎に、じーんと水が染みこむ。

 ……水もおいしいです。


「あ、ペロも飲みますか?」


 ツボの蓋を開けようとしたけど、びくともしない。よく分からないけど、ペロが引っ張って押さえてるみたい。

 ニーノがいるから警戒してるのかな。


 ――もうすぐなのじゃ。そろそろ山が見えるのじゃ。


 細お屑さまがぴこんぴこんする。

 さっそくお影さまの指にしがみついて、首を外に伸ばした。

 目をこらす。

 地平線のほうを眺め、近くに視線を動かし、吹きつける風で目がシパシパなりながら、探した。

 やっとなだらかな丘の向こうで、ふわっと銀色の輝きが揺らめくのに気づく。


「りゅーさま!」


 手を振りたかったけど、また落っこちるのは思っただけでもお腹がそわっとするので、腕には前より力を込める。


「りゅーさまー! エーヴェですよー!」


 叫んだ端から、声が引きちぎられて後ろに置いて行かれた。



 竜さまのたてがみが見えると、そこからはあっという間だった。

 お影さまは着地に両足を使うから、私たちは途中の空中で棄てられて、結局二回落っこちる羽目になる。ニーノが竜さまのところまで連れて行ってくれた。


 ――ぽはっ! 今日は二回も落ちたのじゃ!


 寛容な細お屑さまはぽはぽはしてたけど、ニーノがいなかったら危ないところでした。

 お影さまは丘の向こうに、盛大に土煙を上げて着地してる。


 ――エーヴェよ、帰ったか。


 月明かりの中で、白銀のたてがみをふわふわ揺らしながら、竜さまがこっちを見てる。


「はい! エーヴェ、帰りました!」


 ツボの蓋が開いて、もにゅっとペロが顔を出した。地面に下ろすと、すささっと走って竜さまの爪に張りつく。

 足下を見ると、ガラスのツボは置き去り。

 ……重いのかな?


 ――うむ。ペロも帰った。


 竜さまの金色の目がちらっと(まえ)(あし)を見る。


「ん? おお! エーヴェも張りつきます!」

 ――ぽはっ! エーヴェもペロも、山に張りつくのじゃ。ぽはっ!


 走って行って、竜さまのふかふか胸元に抱きつく。もう日が沈んでだいぶ経つけど、竜さまのふわふわの毛からお日さまの匂いがたっぷりする。

 呼吸に合わせて、しがみついた体が持ち上がって、足がちょっと地面から離れる。また、地面に着く。

 ……すごく久しぶりです!

 テンションが上がって、竜さまの体を登った。


 ――屑も帰った。何よりだ。

 ――うむ、帰ったのじゃ! わしは見事な案内だったのじゃ! エーヴェは全然迷わなかったのじゃ。


 細お屑さまが得意げにぴこんぴこんする。


「そうですよ、おくずさまはとても説明が上手です」

 ――そうなのじゃ! わしは何でも知っておるのじゃ!

 ――ふむ。だが、テーマイがおらぬ。


 竜さまの言葉に、どきっとした。


「竜さま、テーマイも無事です。ここは眷族の匂いがあるので、少し旅をしてみると」


 落ち着いたニーノの声。


 ――うむ。旅は良い。

「お? ニーノ、テーマイに会いましたか?」


 鱗で覆われた肩に体を持ち上げながら、ニーノを肩越しに振り返る。


「貴様らのところへ着く前に、林の陰で呼び止められた。竜さまへの伝言を忘れない立派なディーだ」

「おお! よかったですよ!」


 全然会えなかったから、消息が聞けて一安心。

 ……テーマイも竜さまと別れるのは残念だったのかも。


「テーマイは一人旅です!」

 ――テーマイは走るのが好きなのじゃ。きっとたくさん走るのじゃ。


 細お屑さまが言うと、草原を走るテーマイが思い浮かんでとっても気分がいい。


「そうですね、いっぱい走ります!」

「エーヴェ、貴様は飯だ。降りろ」


 肩の上に立って揺れるたてがみに飛びついてたら、ニーノの鋭い声が飛んできた。


 ――うむ。エーヴェはくたびれておる。また来るといい。


 竜さまの顔が近づいてきたのでわくわく見てたら、地面に降ろされた。

 ナイフを着ける用ベルトをさすさすなでる。

 ……お影さまの爪でも竜さまの牙でも切れない、いいベルト。


「うっふっふー! エーヴェ、りゅーさまに降ろしてもらいましたよ!」

「竜さまにお手間を取らせるな」


 ニーノはやっぱりとっても冷たい。


 ぼっ! ぶー!


 丘の向こうから、お影さまがどしんどしん地面を揺らして戻ってくる。その後ろには、月明かりに燦然と白いお骨さま。

 遠くて見えないけど、きっとントゥも一緒です。


「おかげさま! お骨さま!」


 ――エーヴェ、エーヴェが帰ったのじゃ。水玉も帰って、ントゥが嬉しいのじゃ。


 ……もしかするとお影さま、お骨さまを呼んで来てくれたのかな?

 竜さまにわざとぶつかって、お骨さまはかたかた(あご)を鳴らす。竜さまも首をぶつけ返した。


「お骨さま、エーヴェ、帰りました!」


 ぴょんぴょん()ねてアピールすると、お影さまがやって来る。


 ぶー! べ!


 お骨さまがやって来て、かぱっと口を開けた。頭の上ではントゥが尻尾をうねうね動かしてる。


「ントゥもいます!」

 ――おるのじゃ! おかえりなのじゃ。エーヴェとたくさんなのじゃ。水玉は友の爪なのじゃ。


 お骨さまは嬉しそうに後足でひょいひょい跳ねる。

 一緒にうぉっほっほをすると、とっても帰ってきた気分になった。


「エーヴェ、幸せ者ですよ!」

「そうだな」


 ニーノが冷たく相づちをくれた。

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― 新着の感想 ―
このわちゃわちゃ感といつものニーノの感じ、帰ってきたんだなって実感しますね。 今度はテーマイが旅に出たのか。消息がわかって良かったです。草原や森を力いっぱい駆けるテーマイはきっと楽しんでるんだろうな。…
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