6.たっぷりのお日さまのにおい
途中からお影さまの足の中に戻って、空を進んだ。ペロはツボに入ってるし、ニーノが水筒をくれたし、さっきよりずっと安定して座る。
「ゆっくり飲め」
ニーノに鋭く指摘されて、ちびちび水を口に運んだ。
食べ物がおいしくて痛くなった顎に、じーんと水が染みこむ。
……水もおいしいです。
「あ、ペロも飲みますか?」
ツボの蓋を開けようとしたけど、びくともしない。よく分からないけど、ペロが引っ張って押さえてるみたい。
ニーノがいるから警戒してるのかな。
――もうすぐなのじゃ。そろそろ山が見えるのじゃ。
細お屑さまがぴこんぴこんする。
さっそくお影さまの指にしがみついて、首を外に伸ばした。
目をこらす。
地平線のほうを眺め、近くに視線を動かし、吹きつける風で目がシパシパなりながら、探した。
やっとなだらかな丘の向こうで、ふわっと銀色の輝きが揺らめくのに気づく。
「りゅーさま!」
手を振りたかったけど、また落っこちるのは思っただけでもお腹がそわっとするので、腕には前より力を込める。
「りゅーさまー! エーヴェですよー!」
叫んだ端から、声が引きちぎられて後ろに置いて行かれた。
*
竜さまのたてがみが見えると、そこからはあっという間だった。
お影さまは着地に両足を使うから、私たちは途中の空中で棄てられて、結局二回落っこちる羽目になる。ニーノが竜さまのところまで連れて行ってくれた。
――ぽはっ! 今日は二回も落ちたのじゃ!
寛容な細お屑さまはぽはぽはしてたけど、ニーノがいなかったら危ないところでした。
お影さまは丘の向こうに、盛大に土煙を上げて着地してる。
――エーヴェよ、帰ったか。
月明かりの中で、白銀のたてがみをふわふわ揺らしながら、竜さまがこっちを見てる。
「はい! エーヴェ、帰りました!」
ツボの蓋が開いて、もにゅっとペロが顔を出した。地面に下ろすと、すささっと走って竜さまの爪に張りつく。
足下を見ると、ガラスのツボは置き去り。
……重いのかな?
――うむ。ペロも帰った。
竜さまの金色の目がちらっと前肢を見る。
「ん? おお! エーヴェも張りつきます!」
――ぽはっ! エーヴェもペロも、山に張りつくのじゃ。ぽはっ!
走って行って、竜さまのふかふか胸元に抱きつく。もう日が沈んでだいぶ経つけど、竜さまのふわふわの毛からお日さまの匂いがたっぷりする。
呼吸に合わせて、しがみついた体が持ち上がって、足がちょっと地面から離れる。また、地面に着く。
……すごく久しぶりです!
テンションが上がって、竜さまの体を登った。
――屑も帰った。何よりだ。
――うむ、帰ったのじゃ! わしは見事な案内だったのじゃ! エーヴェは全然迷わなかったのじゃ。
細お屑さまが得意げにぴこんぴこんする。
「そうですよ、おくずさまはとても説明が上手です」
――そうなのじゃ! わしは何でも知っておるのじゃ!
――ふむ。だが、テーマイがおらぬ。
竜さまの言葉に、どきっとした。
「竜さま、テーマイも無事です。ここは眷族の匂いがあるので、少し旅をしてみると」
落ち着いたニーノの声。
――うむ。旅は良い。
「お? ニーノ、テーマイに会いましたか?」
鱗で覆われた肩に体を持ち上げながら、ニーノを肩越しに振り返る。
「貴様らのところへ着く前に、林の陰で呼び止められた。竜さまへの伝言を忘れない立派なディーだ」
「おお! よかったですよ!」
全然会えなかったから、消息が聞けて一安心。
……テーマイも竜さまと別れるのは残念だったのかも。
「テーマイは一人旅です!」
――テーマイは走るのが好きなのじゃ。きっとたくさん走るのじゃ。
細お屑さまが言うと、草原を走るテーマイが思い浮かんでとっても気分がいい。
「そうですね、いっぱい走ります!」
「エーヴェ、貴様は飯だ。降りろ」
肩の上に立って揺れるたてがみに飛びついてたら、ニーノの鋭い声が飛んできた。
――うむ。エーヴェはくたびれておる。また来るといい。
竜さまの顔が近づいてきたのでわくわく見てたら、地面に降ろされた。
ナイフを着ける用ベルトをさすさすなでる。
……お影さまの爪でも竜さまの牙でも切れない、いいベルト。
「うっふっふー! エーヴェ、りゅーさまに降ろしてもらいましたよ!」
「竜さまにお手間を取らせるな」
ニーノはやっぱりとっても冷たい。
ぼっ! ぶー!
丘の向こうから、お影さまがどしんどしん地面を揺らして戻ってくる。その後ろには、月明かりに燦然と白いお骨さま。
遠くて見えないけど、きっとントゥも一緒です。
「おかげさま! お骨さま!」
――エーヴェ、エーヴェが帰ったのじゃ。水玉も帰って、ントゥが嬉しいのじゃ。
……もしかするとお影さま、お骨さまを呼んで来てくれたのかな?
竜さまにわざとぶつかって、お骨さまはかたかた顎を鳴らす。竜さまも首をぶつけ返した。
「お骨さま、エーヴェ、帰りました!」
ぴょんぴょん跳ねてアピールすると、お影さまがやって来る。
ぶー! べ!
お骨さまがやって来て、かぱっと口を開けた。頭の上ではントゥが尻尾をうねうね動かしてる。
「ントゥもいます!」
――おるのじゃ! おかえりなのじゃ。エーヴェとたくさんなのじゃ。水玉は友の爪なのじゃ。
お骨さまは嬉しそうに後足でひょいひょい跳ねる。
一緒にうぉっほっほをすると、とっても帰ってきた気分になった。
「エーヴェ、幸せ者ですよ!」
「そうだな」
ニーノが冷たく相づちをくれた。
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