4.力業
ヴァー――――!
しびれを切らしたお影さまが、大きく咆哮した。
ばさばさ強く羽ばたいて、地面を蹴り、飛び上がる。
「わ、おかげさま!」
高く舞い上がり、羽ばたきで風を起こして前進した。
どんどん速くなる。
遠くなったお影さまを、ぽかんと見送った。
――大丈夫じゃ! 影は戻るのじゃ。
「お?」
一人で帰っちゃうのか心配したけど、いったん遠くに行ったあと、こっちに滑空して戻ってきた。
よかったです。
「……む?」
戻ってくるというか、こっちに突っ込んでくる。
ヴァー――――!
「うわぁああ!」
一瞬、お影さまの大きな足とかぎ爪が見えた。
ばん、と体がぶつかる。ぶわっと土煙が立ちこめた。
目を開けると、お影さまの手の中。
……捕まえられちゃいました。
私だけじゃなくて、地面の土も一緒。
……そうか、地面ごとつかんだんだ。
私と細お屑さまとペロをつかんだお影さまは、また高く舞って、一つの方向へ真っ直ぐに加速した。
――ぽ! 影は賢いのじゃ! これならペロも平気なのじゃ。
ぼっ!
細お屑さまの声は嬉しそうだけど、今の格好はまるで、土にはさまったワカメみたい。
私もお屑さまも土くれと草に押されて、身動き取れなくなってる。
……ペロは大丈夫かな?
見えないけど、お影さまに直接触ってないはずだから、きっと大丈夫。
ぼっ! ――ぼっ!
やっと飛べてご機嫌なのか、お影さまが何度も吠えた。
*
飛びはじめた頃はぎゅうぎゅうだったお影さまの手の中も、だんだんスペースができてくる。
つかんだ土くれが砕けて落ちてるのかな?
大分ゆったり空間になって、細お屑さまもぴこんぴこんしてる。
お影さまの指の間から顔を出して、外をのぞいて見た。
「お、月ですよ! おくずさま、おかげさま!」
ぼっ! ぶーぶー!
――うむ! 昇る月はとても大きいのじゃ。
金色に輝く大きな月が、遠い地平線から昇ってくる。
お影さまが飛ぶ方向の、ちょっと右手から月が昇ってて、眺めやすい。風がとても強いから、鼻の辺りまではお影さまの指に隠れてのぞく。
最初にいたのがどこか分からないから、今飛んでるのがどこなのかも分からないけど、月の明かりで金色に輝く草原はとってもきれい。
……これでお腹がすいてなかったら、きっと、もっときれいに見えたのに。
ばらっと崩れた土が地面に落ちてく。空中で砕けて、月の光で金色に光った。
「おかげさま、金の粉をまいてますよ」
……べ! べー! ぶー!
ちょっと新たな言い回しで、なんて言ってるか分かんないけど、私を呼んでくれたから嬉しい。
金の粉をまくうちに、お影さまの手の中にさらにスペースが空いた。そこで、ペロが土にくっついて、薄ーくなってるのを発見。
「おお、ペロ、よかったです!」
ペロは薄いままで、じわじわ移動してる。
お影さまの手の中はやっぱりペロには熱いのかな?
また、ばらっと土が崩れて地面に落ちていった。
……ペロの足場がなくなる前に、船に着くかちょっと心配。
「おかげさま、あとどのくらいですか?」
声をかけたけど、羽音にさえぎられてるのか、お影さまからの返事はない。
――もう少しなのじゃ。
代わりにお屑さまが応えてくれる。
「おお、おくずさまは船が近いか分かりますか?」
――うむ! わしではないわしがおるゆえ、近づくのが分かるのじゃ。
「ほう!」
さすがお屑さま。
「じゃあ、ペロの足場が崩れる前に着きますか?」
細お屑さまはぴこんぴこん足場を眺める。
――分からぬのじゃ!
「なんと」
ショックを受けたと同時に、お腹が鳴った。
「うぐぅ……、お腹空きましたよ……」
――頑張るのじゃ! もう少しなのじゃ!
ぴこんぴこんするお屑さまがまたダブって見えはじめたから、目を閉じた。お腹をさすりながら、お影さまの指にもたれかかる。
お影さまは滑空中で、羽音はあんまりしない。指の隙間から風がびゅうびゅう吹き抜ける。
……お腹に体中の力が吸い取られます。
「あ! そうですよ、ペロ。おかげさまの爪にくっつきます!」
空腹と闘ってると、突然、頭にいい考えが降りてきた。
でも、目蓋を上げてびっくりする。
お影さまの手の中に、土がほとんど残ってない。少なくなった土くれと植物にペロがくっついてる。
これじゃ、足場じゃなくてペロが土を抱えてる。
「ペロ! エーヴェにつかまりますよ!」
手を伸ばすと、ペロがぶもっと腕を飲みこんだ。吹き抜ける風で乾燥した土が、もろっと崩れて、お影さまの指の間から吹き飛んでいく。
――ぽ! 危ないところなのじゃ!
細お屑さまの安心した声が聞こえたけど、安心からは全然遠い。
「お……、重いです」
――なんと?
ペロは水の塊だから、バスケットボールくらいの大きさでも、ずしんと来る。
いつもはそこまで気にならないけど、今は……。
「エーヴェ、お腹、すきましたよー」
体勢が崩れて、お影さまの指の間から落っこちた。
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