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4.力業

 ヴァー――――!


 しびれを切らしたお影さまが、大きく(ほう)(こう)した。

 ばさばさ強く羽ばたいて、地面を蹴り、飛び上がる。


「わ、おかげさま!」


 高く舞い上がり、羽ばたきで風を起こして前進した。

 どんどん速くなる。

 遠くなったお影さまを、ぽかんと見送った。


 ――大丈夫じゃ! 影は戻るのじゃ。

「お?」


 一人で帰っちゃうのか心配したけど、いったん遠くに行ったあと、こっちに滑空して戻ってきた。

 よかったです。


「……む?」


 戻ってくるというか、こっちに突っ込んでくる。


 ヴァー――――!

「うわぁああ!」


 一瞬、お影さまの大きな足とかぎ爪が見えた。

 ばん、と体がぶつかる。ぶわっと土煙が立ちこめた。


 目を開けると、お影さまの手の中。


 ……捕まえられちゃいました。


 私だけじゃなくて、地面の土も一緒。

 ……そうか、地面ごとつかんだんだ。


 私と細お屑さまとペロをつかんだお影さまは、また高く舞って、一つの方向へ真っ直ぐに加速した。


 ――ぽ! 影は賢いのじゃ! これならペロも平気なのじゃ。

 ぼっ!


 細お屑さまの声は嬉しそうだけど、今の格好はまるで、土にはさまったワカメみたい。

 私もお屑さまも土くれと草に押されて、身動き取れなくなってる。

 ……ペロは大丈夫かな?

 見えないけど、お影さまに直接触ってないはずだから、きっと大丈夫。


 ぼっ! ――ぼっ!


 やっと飛べてご機嫌なのか、お影さまが何度も吠えた。



 飛びはじめた頃はぎゅうぎゅうだったお影さまの手の中も、だんだんスペースができてくる。

 つかんだ土くれが砕けて落ちてるのかな?

 大分ゆったり空間になって、細お屑さまもぴこんぴこんしてる。

 お影さまの指の間から顔を出して、外をのぞいて見た。


「お、月ですよ! おくずさま、おかげさま!」

 ぼっ! ぶーぶー!

 ――うむ! 昇る月はとても大きいのじゃ。


 金色に輝く大きな月が、遠い地平線から昇ってくる。

 お影さまが飛ぶ方向の、ちょっと右手から月が昇ってて、眺めやすい。風がとても強いから、鼻の辺りまではお影さまの指に隠れてのぞく。

 最初にいたのがどこか分からないから、今飛んでるのがどこなのかも分からないけど、月の明かりで金色に輝く草原はとってもきれい。

 ……これでお腹がすいてなかったら、きっと、もっときれいに見えたのに。


 ばらっと崩れた土が地面に落ちてく。空中で砕けて、月の光で金色に光った。


「おかげさま、金の粉をまいてますよ」

 ……べ! べー! ぶー!


 ちょっと新たな言い回しで、なんて言ってるか分かんないけど、私を呼んでくれたから嬉しい。


 金の粉をまくうちに、お影さまの手の中にさらにスペースが空いた。そこで、ペロが土にくっついて、薄ーくなってるのを発見。


「おお、ペロ、よかったです!」


 ペロは薄いままで、じわじわ移動してる。

 お影さまの手の中はやっぱりペロには熱いのかな?

 また、ばらっと土が崩れて地面に落ちていった。

 ……ペロの足場がなくなる前に、船に着くかちょっと心配。


「おかげさま、あとどのくらいですか?」


 声をかけたけど、羽音にさえぎられてるのか、お影さまからの返事はない。


 ――もう少しなのじゃ。


 代わりにお屑さまが応えてくれる。


「おお、おくずさまは船が近いか分かりますか?」

 ――うむ! わしではないわしがおるゆえ、近づくのが分かるのじゃ。

「ほう!」


 さすがお屑さま。


「じゃあ、ペロの足場が崩れる前に着きますか?」


 細お屑さまはぴこんぴこん足場を眺める。


 ――分からぬのじゃ!

「なんと」


 ショックを受けたと同時に、お腹が鳴った。


「うぐぅ……、お腹空きましたよ……」

 ――頑張るのじゃ! もう少しなのじゃ!


 ぴこんぴこんするお屑さまがまたダブって見えはじめたから、目を閉じた。お腹をさすりながら、お影さまの指にもたれかかる。

 お影さまは滑空中で、羽音はあんまりしない。指の隙間から風がびゅうびゅう吹き抜ける。

 ……お腹に体中の力が吸い取られます。


「あ! そうですよ、ペロ。おかげさまの爪にくっつきます!」


 空腹と闘ってると、突然、頭にいい考えが降りてきた。

 でも、目蓋を上げてびっくりする。

 お影さまの手の中に、土がほとんど残ってない。少なくなった土くれと植物にペロがくっついてる。

 これじゃ、足場じゃなくてペロが土を抱えてる。


「ペロ! エーヴェにつかまりますよ!」


 手を伸ばすと、ペロがぶもっと腕を飲みこんだ。吹き抜ける風で乾燥した土が、もろっと崩れて、お影さまの指の間から吹き飛んでいく。


 ――ぽ! 危ないところなのじゃ!


 細お屑さまの安心した声が聞こえたけど、安心からは全然遠い。


「お……、重いです」

 ――なんと?


 ペロは水の(かたまり)だから、バスケットボールくらいの大きさでも、ずしんと来る。

 いつもはそこまで気にならないけど、今は……。


「エーヴェ、お腹、すきましたよー」


 体勢が崩れて、お影さまの指の間から落っこちた。

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― 新着の感想 ―
月光に照らされた土が金色になって空中に散るの綺麗だな〜いい光景だな〜ってニコニコしてたら、まさかまさかの危機一髪じゃないですか。 ペロ、生きた心地がしなかっただろうな。かわいそうに。薄ーくなって土と草…
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