3.乗らない
空腹に耐えながら、お影さまのお腹にもたれて空を見上げる。
ペロはまだちょっぴりお影さまを警戒してるのか、少し離れた草むらで、草を揺らしながらのそのそしてる。
――おお、エーヴェがしょんぼりなのじゃ。もうちょっとなのじゃ! 影が起きれば、皆で船に戻るのじゃ。
細お屑さまがぴこんぴこん励ましてくれる。
お腹がすきすぎて、細お屑さまが二重に見えてきた。
「おおお、おくずさま、エーヴェと歌をうたいますよ」
――歌かや? よいのじゃ。元気が出るのじゃ。
力がこもらないけど、歌うと少し気がまぎれる。
細お屑さまとへなへな歌ってると、だんだん空が暗くなって、一番星が輝いた。
それまで一定のリズムで膨らんだり萎んだりしてたお影さまのお腹が、ぶるっと波打つ。
「お?」
羽がそろりと持ち上がり、陰で二つ、闇がきらめく。
……ぼ
――おお! 影が起きたのじゃ。
「おかげさま! おはようございます」
羽の下からそっと首を起こして、おかげさまはきょろきょろ辺りを見回した。そして、大あくび。今度は豪快に首を背中側に倒して、ばりばり角でかく。満足したら立ち上がって、羽を軽く上下させ、ぐいーっと伸ばした。
まるで寝起きのストレッチみたい。
うっかり押しつぶされないように、急いで離れる。力が入らないから、四つん這いで移動した。
――待ちくたびれたのじゃ。影よ、エーヴェとペロとわしを、船まで運ぶのじゃ!
お影さまは尻尾の先から頭の先まで一直線にして、ぐーっと伸びる。次は左右にぶんぶん振った。
……おかげさま、ストレッチが入念です。
――影よ、聞いておるかや?
ばたばたする羽ばたきにあおられながら、細お屑さまが聞く。細お屑さまはやっぱり寛大。他のお屑さまだったら、とっくに怒ってる。
ぼっ!
お影さまが応えて、のしのし方向転換し、こっちを見た。
――おお、影、準備ができたのじゃ! 帰るのじゃ!
ぼっ
お影さまは、また欠伸をした。
……古老さまに会うために、ずいぶん無理して飛んできたんだ。
「おかげさま、エーヴェを載せてくれますか?」
ぼっ
――うむ。影が足で摘まむのじゃ。
「むむ……」
ニーノみたいに背中に乗れたら素敵だったけど、やっぱりまだダメ。
そこで、はっと気がついた。
「おくずさま、ペロはどうしますか?」
暗くなって揺れる草は見えなくなったけど、ペロはまだその辺りでのそのそしてる。確かペロは、竜さまたちが熱すぎて触れないんじゃなかったっけ?
――む? ペロは、以前に山の爪にひっついておったのじゃ。わしではないが、わしが見たのじゃ。爪か角につけばよいのじゃ。
「角!」
竜さまの角にしがみつくなんて、とってもうらやましいですよ!
さっそくペロを呼ぶ。お屑さまと声をそろえていると、草むらから水玉が出てきた。
草と星を反射させてるから、暗いけど、結構分かる。
「そういえば、ペロ、鉢はどこですか?」
ペロは一瞬固まったけど、すぐにリラックスモードに戻った。
――なくしたのじゃ。旅行けば、物など身に残らぬのじゃ。
「なんと」
ペロも物なくし友達。今まで蒸発しなくてよかったです。
――影よ、ペロを角につけてやるのじゃ。
ぼっ!
お影さまが地面に頭を近づける。でも、改めて見ると、角に取りつくにはお影さまの顎から頭まで上がらないといけない。
「……ペロ、上がれませんよ」
――影よ、角を地面に近づけてみるのじゃ。
お影さまは頭を傾けて、地面を眺める。
ぶー……
不服そう。
頭を傾けた拍子に角が少し地面に近づいたけど、それくらいじゃ、とても届かない。
「お、そうですよ! エーヴェはおかげさまに触れますから、エーヴェがペロを運んで登ればいいです!」
――賢いのじゃ! さっそくやってみるのじゃ。
意気揚々とペロを振り返る。
ペロはリラックスモード。
どうやって運べばいいかな? 両手両足でよじ登るから、背中か頭にペロが乗っていれば上手くいきそう。
「ペロ、おんぶです!」
ペロに背中を向けてしゃがむ。
でも、しばらく待っても何の動きもない。
振り返ると、ペロはリラックスモード。
――ペロ! エーヴェに乗るのじゃ! そして、影の角につくのじゃ。
ぶー!
頭を下げっぱなしなのが疲れたのか、お影さまは首ごと地面に倒れ込んだ。どんっと地面が揺れて、ペロも私も一瞬宙に浮く。
お影さまは首を地面につけたまま、後足で地面を押して、ずりずり前進する。
……暑くてうだってるシロクマみたい。真っ黒だけど。
「ペロ、乗りますよ!」
ペロはのそのそ草のほうへ戻ろうとする。
一回お腹の上に乗ったことがあったのに、今は無関心。
ぐるるるぅぅうぅ
お腹が鳴った。
もう、とても、とってもお腹が空いた。
「エーヴェ、早く帰りたいですよ! ペロ! 行きますよ!」
ぶーぶー!
イライラして地団駄踏むと、賛成するみたいにお影さまが吠える。地面から起き上がって、羽をバタバタした。
――ペロも水がいるのじゃ。早く帰るのじゃ。
細お屑さまもはためいて言うけど、ペロはほよっと星の光を映してる。
遅々として進まない……
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