2.テーマイの行方
そろそろ週2回更新くらいにしていきたい
古老さまの興奮が冷めたのか、お影さまはその場でうずくまって、羽の下に頭を隠してしまった。日が暮れるまで頭を隠してるつもりみたい。
……お影さま、船の傍に戻るとき、連れて行ってくれるかな?
荷物がほとんど残ってなくて、今いる場所も分かってなかったから、帰りがちょっと心配だった。お影さまが連れ帰ってくれたら、とても嬉しい。
ぐぅぅぅぅうううう
お腹が鳴った。
急に思い出したけど、古老さまに会う前からお腹がペコペコだったんだ。喉も渇いた。
辺りを見回して、涼しく伸びた草の中から、大きく葉っぱを広げた草を見つける。真ん中くらいから折って、口にくわえる。噛むと、ちょっと酸っぱくて、唾がわく。
あんまり足しにはならないけど、何もないよりはマシ。
奥歯で茎をあぎあぎしながら、細お屑さまを見る。
「おくずさま、エーヴェ、お腹すきました」
――うむ。影が起きたら飛んで帰るのじゃ。船ならば、エーヴェの食べる物もあるのじゃ。
垂れてた細お屑さまもようやく、いつもの調子が戻ってきたみたい。
お腹がすいたのと疲れたのを思い出して、草原にしゃがみ込む。古老さまと一緒にいるときは、お腹が空いたことなんて全部忘れてた。不思議。
……やっぱり特別な世界にいたのかな?
心の中みたいな場所? 心の中だったらお腹は空かないのかもしれない。
細お屑さまは伸び上がって、丈の高い草の向こうに見える、お日さまの傾きを眺めてる。
膝こぞうに頰杖着いて、おやっと思い出す。
「おくずさま、テーマイはどこですか? お影さまと帰る前に、テーマイを探さないといけません」
お腹がとってもすいてるから動きたくないけど、テーマイがいないのは困ります。
細お屑さまがぴこんぴこんこっちを向いた。
――おお、テーマイなら少し一人旅なのじゃ。
ぱちぱち瞬く。
……一人旅?
――古老から聞いたのじゃ。テーマイには、船の旅は窮屈なのじゃ。ここは広々していて珍しいゆえ、しばらくここで旅するのじゃ。
「えー――――~~!!」
思わず立ち上がった。
「じゃあ、テーマイ、戻ってきませんか? エーヴェ、もうテーマイに会えませんか?」
さっき古老さまと別れたばかりなのに、またお別れなんて!
――会えないとは限らないのじゃ。テーマイはすこし林あたりに興味があるのじゃ。眷族のにおいがすると言っておった……と古老が言ったのじゃ。
お屑さまは、ぺろっと倒れる。古老さまが行っちゃったことを、また思い出したみたい。
……古老さまショックが大きいですよ。
でも、今、私はテーマイショック。
「あ! ペロ! テーマイを知りませんか?」
草をゆらゆらさせて戻ってきたペロに、しゃがみ込んで聞く。ペロは一瞬止まったけど、興味なさそうにのそのそ離れていく。
――ペロも知らぬのじゃ。
「なんと」
……これだから野生動物は!
古老さまは見えなかっただけだけど、テーマイはとっても勝手。
お腹が減ったのも加わって、どしどし足踏みする。
――おお? エーヴェが踏みしめておるのじゃ。また踏みしめておるのじゃ。
「エーヴェはさみしいですよ!」
ここまで背中に乗せてくれて、寒い夜も一緒に越えたのに、仲間の気配でどこかに行っちゃうなんて!
「エーヴェだって仲間ですよ!」
テーマイの気持ちは全然分からないけど、少なくとも私はテーマイを妹だと思ってる。
――仕方がないのじゃ。エーヴェも近くにヒトの気配があれば、見に行くに決まっておるのじゃ。テーマイも同じなのじゃ。
「むー!」
ぐるるるぅぅうぅ
お腹の音が、虎の咆哮みたいになってる。
テーマイも言葉がしゃべれたら、あいさつくらいしてくれたのかな。
もしも、ここにいるのが私じゃなくてニーノだったら、一人旅に出る前にあいさつしに来たかもしれない。来なかったかもしれない。
地団駄で作られた緑の草の丸いクッションにしゃがむ。
「おくずさま、ニーノは動物の言葉が分かりますよ。エーヴェも動物の言葉が分かるようになりますか?」
細お屑さまはとっても不思議そうに体をくねらせた。
――なぜわしに聞くのじゃ? ニーノに習えばよいのじゃ。できるかどうか、わしは知らぬのじゃ。
そうか、私にどんなことができるかなんて、お屑さまに聞くことじゃない。
両手の指を組み合わせて、細お屑さまの向こうに見える空を切り取ってみる。
もう大分、オレンジ色が強くなった。
ぱっと手を解く。
「……帰ったら、ニーノに相談します!」
次にテーマイに会ったとき、挨拶してびっくりさせますよ!
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