21.立つ鳥
気ぜわしく書いてしまったので、あとで見直して修正するかもしれません。
待っても、古老さまは来ない。
とっても寂しいけど、これからどうするかちゃんと考えないと。
口をへの字にして、景色をにらみつける。
――目印になりそうなものはあるかな?
見回したところで、不規則に揺れている草を見つけた。風になびいてるのとは、明らかに違う揺れ。
警戒して、じっと見つめる。
――む! 見つけたのじゃ! エーヴェなのじゃ!
「お! おくずさまです!」
この跳ねるフィドルみたいな声は、間違いない。どこだろうと首を巡らせたら、怪しい草の揺れが、真っ直ぐこっちに向かってくるのに気づいた。
こっちに走ってる。
丈の高い草の間で、きらっと光る体とぴらぴら動く黒い藻みたいなのが見え隠れした。
「ペロ! おくずさま!」
――エーヴェじゃー!
草の間から走り出たペロが、周囲をぐるぐる駆けめぐる。その頭上で、おくずさまがぱたぱたはためきながら、やっぱりぐるぐる回ってる。
「おお、よかったです!」
しばらくすると、ペロが腕輪をぺっと吐き出した。草に投げ出された腕輪と細お屑さまを拾って、着ける。
細お屑さまのぴこんぴこんが、ちょっと懐かしい。
――エーヴェ、よく戻ったのじゃ!
「エーヴェ、帰りましたよ。おくずさま、迎えに来てくれました!」
――そうじゃ、探したのじゃー!
にこにこして、しゃがむ。
「ペロも迎えに来ましたよ!」
ぺちぺちしたかったけど、ペロは相変わらず駆けめぐってるから狙いが定まらない。
真面目に狙いを定めようとしたところで、細お屑さまがぴこんっと伸びた。
――エーヴェ、古老が行くのじゃ。挨拶じゃ。
「え? 古老さま、いますか? エーヴェ、古老さま、見えませんよ!」
古老さまを探して、あちらこちら見て回る。とても小さくなった可能性も考えて、草の下なんかもぴらぴらめくる。
――何をしておるのじゃ?
怪訝そうな細お屑さまの声に、はっとした。
「おくずさまは古老さまが見えますか?」
――古老は見えないのじゃ。ただ古老はおるのじゃ。エーヴェが古老に留まるように言ったのかや? よきことなのじゃ! 竜は皆、気がついておる!
細お屑さまが、細かく震えてる。とっても興奮してるみたい。
思い出した。古老さまはとても大きい。次元くらい大きい。だから、それぞれの世界に入ってやっと会えた。
「なんと! じゃあ、古老さまはいます! ちゃんといました! 古老さまー! エーヴェですよ!」
飛び跳ねてアピールするけど、どこに向けてアピールすればいいのかよく分からない。
細お屑さまがぽはぽは笑う。
――跳ねずともよいのじゃ。古老は見えておる。知っておる。
「おお」
落ち着いて立って、見えないけど、ここにいる古老さまのことを考える。燕さまのお日さまみたいな匂いがした羽に包まれるのを思い出す。
見えないだけで、とっても大きな羽が頭の上に触れてるのかもしれない。
「古老さま、ありがとうございます! エーヴェ、技を覚えました。これでまどろみどきから帰れます。りゅーさまが迎えに来なくても、大丈夫です」
ふと首をかしげた。次元くらい大きい古老さまだから、もしかしたらお別れを言うなんて、できないのかも。
……でも、古老さまは他の世界に行くから、挨拶したほうがいい。
「古老さま、さよなら! また、戻ってきてくださいね!」
――古老がいると暖かいのじゃ。また会うのじゃ!
ぐるぐる駆け回ってたペロが、急に一方向へ走り出した。
ずっとずっと草が揺れ、そのうち止まる。
眺めてたら、急に細お屑さまがぺろっと垂れた。
「わ! おくずさまどうしましたか?」
――古老が行ってしまったのじゃ……。
「おお……」
……細お屑さまは古老さまが好きなのかな?
草原を見回してみる。
さっきと同じ。晴れた空に風が吹き抜ける。草が揺れる。
ちよちよちよちよと、鳥の声がまた、空の高い方へ昇っていく。
世界は変わってない。
草が揺れてペロが戻ってきた。
もしかして、ペロは古老さまを追いかけてたのかも。
しゃがんでペロをぺちぺちする。
「ペロ、エーヴェが帰りましたよ」
一瞬、ぶもんと手が呑まれて、すぐに吐き出された。
まだぺちぺちする。
「古老さまは、いってらっしゃーい、です」
近くて大きい古老さまは、気配も濁りも残さない。
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