13.アシュ大会
「お骨さま、楽しそーですね」
お骨さまも一緒にうぉっほっほしてると、システーナがやって来た。帆は全部たたまれて、黒い岩場に白い船がしっかり着地してる。
――おーんせんなのじゃ。エーヴェはおーんせんが好きなのじゃ。
お骨さまは一緒にうぉっほっほしてくれるけど、温泉がなんなのかはたぶん、全然分かってない。
「おーんせんってなんだ?」
「あったかい湧き水です……あ!」
首をかしげながら、システーナは湖の水を手ですくった。口に含んでぶっと吐き出す。
「くせー! 変な味すっぜ!」
「おお、飲めませんか? 飲める温泉と飲めない温泉がありますよ」
「ぬるい水なんじゃねーの?」
首をかしげてるシステーナの横で、竜さまが首を伸ばして、湖の水を飲んだ。
「おお、りゅーさま、平気ですか?」
竜さまの金色の目がこっちを見る。
――うむ。美味である。ヒトが飲んでも、毒ではあるまい。
「おお!」
――だが、ヒトにとっては美味ではない。
「おお……」
美味しくないのは残念。ミネラルが溶け込んでる感じなのかな?
――ぽはっ! 山とヒトとは食う物が違うのじゃ! 美味も違うのじゃ!
お骨さまは竜さまの真似をして口を水面に付けるけど、ざばーっと水が落ちるだけだ。
「おちびはまずい水が好きなのかー?」
システーナがふてくされてる。
「違いますよ! 温泉はお風呂になります!」
「風呂?」
手で水をぱしゃぱしゃして、あったかいことに改めて気が付いたみたい。
「なるほどなー! 風呂って、くせーし、飲んだらまずそーだよな!」
……あ、そうか。システーナはニーノのお風呂しか知らないんだ。
ニーノのお風呂は、薬の匂いがいっぱいだから、飲んだらきっと苦い。
想像して顔が渋くなる。
「竜さま、お食事にいらっしゃいますか?」
想像してたら、本人がやって来た。
――うむ。皆、ここにおるがよい。わしは腹を満たしてくる。
金の目を細めて、竜さまは羽をゆったり広げる。
「え! りゅーさま! 一緒に温泉!」
ぴょんぴょん跳ねて主張した。
「貴様、何を言っている」
ニーノが冷たい目で見下ろしてくる。
「ニーノ! この湖は温泉ですよ! みんなで、大、露天風呂ですよ!」
「これ、風呂になるらしーぜー」
システーナがにやにやしてる。ニーノが眉間にしわを寄せた。
「人間用ならばともかく、竜さまがたには浅いだろう」
「なんと!」
そういえば、お骨さま、足が湖の底についてる。竜さまは立ったままだと、お腹の下の方がぎりぎり湖面につくくらい。
「これだけ水量があれば、全ては温かくない。ひどく熱いか、冷たいかだ。竜さまがたがつかる風呂というのは難しい」
むー。お風呂は大きければ大きいほど大変です。
「あ! 足湯! 足湯ですよ!」
転生前に温泉の国にいた経験が、いい考えを運んできた。
――ぽ? あしゆとはなんじゃ?
さすがのお屑さまでも足湯は知らない。
「あったかいお湯に足をつけるのが、足湯ですよ」
――足をつけるのかや? なにゆえじゃ?
「足があったかくなって、とっても気持ちいいですよー。快適です!」
竜さまたちの感心した気配がする。
――あしゆとやらをしてみよう。
竜さまがのしのし湖に入っていく。
――わしもアシュなのじゃ。
お骨さまは足下を見てから、口をぱかっと開ける。
――もうアシュなのじゃ。
水を跳ね上げながら、うぉっほっほが再開された。
――童! わしも足湯なのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこんする。
「おお……おくずさま、足どこですか?」
ワカメみたいにペラペラだけど、よく見たら、尻尾の先がかぎ爪になってる。ということは、尻尾が足なのかな?
「腕輪を水に落とせばいいんじゃねーの?」
システーナの助言に腕輪を外して、湖に入れる。
――あし、ぼごっ、あし、ぼごっ、じゃ!
お屑さまには湖は十分深くて、ぴこんぴこんする度に頭が水中に沈んでしまう。
――屑よ。わざわざ奇妙なしゃべり方をせずともよい。
――なん、ぼごっ! いき、ぼごっ! じゃ! ぼごっ!
――たくさん、ぼごっぼごっ。
お骨さまがお屑さまのぴこんぴこんに合わせて頭を上げ下げした。
「エーヴェも足湯ー!」
サンダルを脱いで、岩に腰かけて足をつける。
お風呂にはちょっと温いけど、待ってるとじんわり温まってくる。
「あたしもー!」
システーナも隣に座って、足をつける。
お骨さまの頭の上に載ってたントゥが、湖に飛び込んで泳ぎだした。
泳ぐントゥにつられたみたいに、テーマイも湖に入ってる。最初は、何度もぷるっと首を振ってたけど、だんだん慣れてきたみたい。
「……ジュスタ、起きたか?」
しばらく黙って立ってたニーノが、宙に声をかける。
ジュスタが来たら、みんなで足湯大会だ。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。