17.雪のひとひら
古老さまは風の中をびゅうびゅう飛び回る。
竜さまの背に乗ってるときより楽ちんなのは、まどろみどきの中だからかな。
「古老さま、どうして大きくなりましたか?」
――私の大きさは変わらない。貴様が小さくなった。
「ほー?」
さっきまでと気分が変わらないから、ぴんと来ない。
周りを見回してみるけど、空の真ん中だと比べるものがない。
「古老さまから見ると、エーヴェはどのくらいの大きさですか」
仕方ないから、古老の竜さまに聞いた。
隣でふわふわ揺れてる眼球が瞬きする。
――雪のひとひら。
「雪!」
燕さまとの大きさを考えると、腑に落ちた。
そういえば、この世界に来てから、まだ雪は見たことがない。
「エーヴェはとても小さいですよ」
燕さまの背中に乗った雪のひとひら。
小さいってわくわくする。
雪なら落ちるにしても、ふわふわ地面に降りられるかもしれない。
古老さまの羽につかまって、世界を眺める。灰色の空、灰色の大地。山脈があるけどぼんやりして、どんな形なのか言い表すことができない。
……ん? 本当に動いてるかも?
――まどろみどきは一つの姿を持つものではない。あらゆる物を含んでいるが、お互いに境目がなく、触れ合って混じっている。
「でも、古老さま、今、空の真ん中ですよ?」
ちゃんと空気がある。
風が通り過ぎるのが分かるのは、体があるから。そして、燕さまの背中がある。
――そうだ。それがエーヴェの特性だ。全てが混じり、彼我の区別がないまどろみどきで自分を切り離すことができる。エーヴェを保っている。
ぱちぱちと瞬く。どういうことだろう?
――ここは十全だ。全てはここにあり、だが、一つ一つを拾い上げることはできない。全ては混じっている。あることだけが分かる。
「はい」
――ここはもともと竜の場所だ。竜はここに巣食う。だから、どの竜もここで遊ぶ。
今までまどろみどきで会った竜さまたちを思い出す。
場所はいつも違ったけど、あれは、そこにいる竜さまによって世界が変わるからだったのかな?
……でも、全部荒れてました。
十全なのに、どうして荒れてるんだろう。
――十全とはいえ、全体が少なくなることはある。水たまりが日照りで干上がるように。滅多にないことだが、一つの力が何かを根こそぎ同一の状態に押しやると、まどろみどきは少し縮まる。
「今のまどろみどきは縮まってますか?」
――縮まっている。
「おお……」
縮まってない状態を知らないけど、残念な気持ち。
竜さまたちが遊ぶ場所は、広いほうがいいですよ。
「どうやったらまどろみどきは大きくなりますか?」
尋ねると、古老さまの眼球がうねうね動いた。
――それは私が行う。エーヴェはただ生きればよい。
「おお!」
古老さま、偉大!
――話を戻す。十全なここで一人いる。それは竜の特性だ。十全なここを飛び回り、泳ぎ回り、竜は全てを揺るがせる。
「おお?」
よく分からないけど、かっこいい。
眼球がぱちぱち瞬いた。
全然そうは見えないのに、笑われた気がする。
――貴様は雪のひとひらだ。しかし、泳ぎ回り、動き回るなら、何かを揺るがせることもあるかもしれない。
「おお……!」
もしかして、エーヴェの特性すごい?
――しかし今はまだ、融けるだけだ。
「なんと」
全部が混ざった場所でとけたら、どうなるんだろう?
――いるが、拾えない者になる。
「え! 怖そうです!」
――怖いという思いは拾えない。
「ぎー!」
変な音が出た。
……怖いが分からないなんて、怖いですね!
――だが、それも本題ではない。貴様は帰るわざを学ぶ。
何回も古老さまは話を戻す。お骨さまやお屑さまと違って、話が渦を巻きません。
「はい!」
まどろみどきでとけたら大変です。
これは、とっても大事なわざですよ。
エーヴェの「おお」がいつにも増して多いです。
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