16.では、寝ろ
ふわぁーっと大きな欠伸が出た。
ペロがペロの古老さまと遊んでるのを眺めてたら、眠くなる。
……のどかですよ。
――窓を閉じろ。
ぴしゃんと言われて体が跳ねた。
ニーノそっくりだから、二倍びっくりする。
「――窓はどうやって閉じますか」
しばらくじっと窓を眺めて、肩の燕さまに聞く。
閉じたいと思えばいいのかな。
――やってみろ。
古老さまに励まされて、窓を眺める。
触って閉じられないかあちこち探るけど、何の手がかりもない。後ろ向きに走って、距離を開けた。窓が手のひらサイズになった所で止まる。
引き戸の窓を閉じる感じで、指で架空の窓枠をつかんで動かす。何も起こらない。
……うーん、穴が開いてる感じですから、窓ガラスを閉じる気分じゃだめですよ。
窓を閉じるじゃなくて、ふさぐ。
掌を伸ばして、遠くの窓をごしごしこする。
左官が壁を塗るみたいに。
そーっと掌をどけると、そこはもう黄色の花畑しか見えなくなってた。
――閉じたな。
「おお!」
嬉しくてうぉっほっほをする。
燕さまの口調はニーノだからそっけないけど、二股尾の目をうきうき動かしてるから、一緒に喜んでくれてるのかも。
――よくやった。窓を開け、閉めた。
「はい!」
――では、まどろみどきへ行く。
驚きで、うぉっほっほをぴたっと止めた。
「え? 今ですか?」
――貴様は、まどろみどきから帰る技が必要で、ここに来た。
「おお、そうですよ」
古老さまはニーノみたいにてきぱきしてる。
――貴様はどうやってまどろみどきに入る?
「どうやってるか分かりません。でも、寝てます」
いつも夢の中にいる気分で、起きてからやっと、まどろみどきに入ってたのが分かる。
燕さまは重々しく頷く。
――では寝ろ。
「なんと」
寝ろと言われて、すぐ眠れません。
――急げ。あまり時間がない。
燕さまがぱたぱた羽ばたく。
よく分からないけど、急いで花畑にひっくり返った。
「むー……急いで寝るなんて無理ですよ」
寝っ転がった鼻の頭に燕さまが降りて来た。尾の先の目がちょうど真上からのぞき込んでくる。
――これが貴様の寝る姿勢か?
「はい」
尾がくにくに動き、先端の目が瞬きする。
目蓋が鳥と同じに下から上に覆うのが面白くて、しげしげ眺めた。
――では、寝ろ。
また無茶を言う燕さまに口を尖らせようとしたけど、ぱたんと目蓋が落ちた。
くらっと力が抜けて、すとんと闇が降ってくる。
今度はぱちんと光が弾けて、目蓋を開けた。
目の前に、灰色の空がある。
「う……わー――――っ!」
重力! 引力!
目を開けた途端、体が落っこちた。
目蓋を閉じる前までは花畑にいて、ぽかぽかな気分だったのに、急に空の真ん中で冷たい風が吹き荒れてる。
ごおぉぉぉ
風に取り巻かれてるみたい。
耳に風があたって、音みたいな圧みたいな。なんだか息がしにくい。
大変なことですよ!
思ったとき、体が何かに支えられた。まだ飛んでるけど、さっきと違って斜めに空を横切っていく。
背中に当たってるふわふわしたものを、ごろりと転がって確かめた。
黒にも青にも見えるつやつやした草? ふかふかして、乾いたコケみたい。
――急に落ちるな。
頭に声が響いた。
これは、古老さまの声。
顔の隣に長いものがすうっと伸びてきて、そっちを見る。長いものの先端に、大きな球体がくっついてる。
薄い膜が下から上を覆って、また球体がむき出しになった。
「古老さま!」
――そうだ。
四つん這いになって、草をよく見る。
いつの間にか百倍大きくなった古老さま。その背中に乗って、飛んでた。
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