15.窓と扉
昨日、月曜日だとすっかり忘れてました!!! すみません!
光と色をわくわく見てて、ふと最初の暗い風景を思い出す。
――疑問がわいたなら、視点を変えろ。
「お、古老さま。また、エーヴェの考えてることが分かりました」
――当然だ。ここは貴様の世界だ。
古老さまは私の世界の中にいるから、私の考えが分かる。
ペロの世界を見た私の理屈で考えると、それも厳密には同じではないのかも。
「どうやって視点を変えますか?」
頭の上にいる燕さまを見上げる。ちょっと考える間があった。
――焦点を変える。
「しょーてん!」
――貴様はペロに寄りすぎている。すこし離れて全体を見る。
「なるほど」
古老さまは言葉を選んでる。とてもイメージしやすい。
すこし距離を取ってペロを見る気分。
……ん? それって、いつも通りですよ。
急に窓の向こうの世界が動いた。ぽよっとしたペロが走り回ってる花畑と、そこに大きな何かがいる。
青い大きなかたまり。
一瞬、水族館を思い出す。大きな水槽の前に立ったみたいな。
「おおー! なんとー!」
水のかたまり。
草原に水の壁みたいに、水がかたまりで存在してる。
まか不思議。
大きな大きなペロ? でも、形が球体じゃない。
「形がぶまんぶまんしてますけど、もしかして、りゅーさま?」
竜さまが、風船で作られた大きな遊具になったらこんな感じかな?
尖ったところが全然なくて、ぶもんぶもんしてる。水だからすごく重そうなのに、ぼたぼた落ちないで形をたもってる。動きはすごくゆっくり。
「あれはもしかして、ペロから見た古老さまですか?」
――おそらく。
「ほほう」
ペロの千倍はある大きな水の古老さまは、足がない。ペロみたいに地面にぼよんとくっついてる。花畑に接してるところを注意して見ると、花が次々水の中に入っていく。逆サイドは何事もなかったように次々出てきてるから、ゆったりに見えて、そんなにゆったりじゃないのかも。大きいからあんまり動いてないように見える。
首や羽なんかの厚みが薄いところは向こうの景色が見えるけど、お腹辺りは水の厚みで光が通らなくて深海みたいに暗い。
花畑をしゅささっと走ってたペロが、古老さまに突進する。
「あ!」
ペロ、古老さまの中に入っちゃった。
「……なんと、最初の海の中は古老さまの中でしたよ!」
夜だと思ったのは、古老さまのお腹の辺りにいたせい。
ペロは水玉だけど、水の中に入れるみたいに、古老さまの中にも入れる。
「まか不思議」
なんで古老さまの中に入ろうと思ったんだろう?
――ペロは山の眷族だろう。
声を見上げても、何も見えない。
ぱたぱた羽音がして左を向くと、燕さまが左肩に着地して、羽を丁寧にたたんでるところ。
――話をしている。
「へー! 古老さまの中に入ってお話ししますか」
――そうだ。貴様ら人と違って、言葉は用いない。
むむ。景色と同じで、話も横から聞くのはできないみたい。
でも、さっき見た光と色でいっぱいの景色を思い出すと、きっとペロは楽しい時間を過ごしてる。
……それが分かるだけでも素敵です。
――どうだ。技が分かったか?
燕さまの声にはっとする。
「窓の開け方は分かりました!」
……ペロの世界に行くなら、この窓をくぐればいいのかな?
――そうだ。だが、くぐるな。
古老さまはいつでもナイスタイミング。
さっそく窓枠に体を乗り上げようとしてたのを、中止した。
「ペロの世界に行っちゃダメですか?」
――窓は内から出るのは容易だが、外から入るには高い。
「おお……」
テラスやベランダに通じる窓なら別だけど、たいてい少なくとも床の高さ分、外からのほうが窓の位置が高い。窓から簡単に入られたら困るもんね。
――貴様がまどろみどきから戻る方法としてはもっとも簡単だが、行き来するための方法ではない。
「行き来する方法もありますか?」
聞いてから、思いつく。
「扉ですか?」
――そうだ。だが、これは窓よりずっと難しい。
ちょっと想像してみる。
まず、扉は外と内側の地面の高さが同じじゃないと開かない。
これで、もう無理。ペロの世界の地面がどこにあるかなんて、全然分からないもんね。
さっきも、まずペロの視点。それから焦点をずらすと、ペロとペロから見た古老さま、花畑全体が見えた。焦点をずらすだけで見える範囲も変わるのに、地面の高さをそろえるなんてできるのかな。
――よく考えている。しかし、その見方では行き来する方法には到らない。
「むむ……、エーヴェもそう思いますよ」
古老さまはもっと違う見方でいろんな世界を見てるから、行き来して、同時に違う世界にいることもできるんだろうな。
「不思議ですよ」
――私は次元が違う。
「おお!」
たぶん、古老さまは事実をそのまま言ってるけど、私には威張って聞こえて、ちょっとおかしかった。
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