12.聞きたいこと
古老の竜さまは、顎をかぎ爪でかしかし掻く。
その間も、燕尾の先端についた目で、周囲をうかがってる。
……尾の先に目があったら、頭の上の目とどうやってバランスを取るのかな?
「古老の竜さまは、いくつ目がありますか?」
顎を掻く間、閉じてた目を開けて、古老の竜さまは首をかしげる。
――うーん。エーヴェから見ると、四つみたいだね。
「お? エーヴェじゃなかったら、違いますか」
――そうだよ。俺は会う相手によって、見え方が変わるから。
「なんと!」
じゃあ、お屑さまが古老の竜さまはとても大きいと言ったのは、お屑さまから見たらってことかな?
――それは、ちょっと違うな。うーん。
口に出してないのに、古老の竜さまが答える。
驚いて瞬きする間に、古老の竜さまは指を蹴って飛び立ち、すうっと一周して肩に降りた。
――やはり、この人格が良い。説明向きだ。
「あ、ニーノ」
――ニーノではない。
ぴしゃんと言われた。
……とてもニーノっぽいです。
「むむ……エーヴェ、説明ならおくずさまだと思いますよ!」
ニーノがいやなわけじゃないけど、ここまで細お屑さまはとっても上手に説明してくれた。
――竜の言葉を、竜に置き換えてどうする。
「お?」
そういえば、竜さまたちと話すときは頭に言葉が響く感じだから、人とは言葉がちがうのかも。
それなのに、あんなに上手に説明できるお屑さまはすごいです。
――さっきの話の続きだ。竜であれば、私の姿を知っている。確かに私は大きい。貴様に分かる概念ならば、次元だ。
「じげんですか? 点とか線とか?」
――そうだ。私の次元は貴様たちと異なる。観測軸が多い。故に、貴様らの知る姿に自らを落とし込む。こうなる。
古老さまは、翼を開いて姿を見せてくれる。
薄い翼は羽毛が重なったものじゃなくて、皮膜。鳥とトカゲの中間みたい。
「じゃあ、エーヴェ以外から見ると、古老の竜さまは目がもっと多かったり、少なかったりしますか」
――そうなる。
「むー……」
なんだか難しい。私も竜さまたちと同じ次元にいたら、本当の古老の竜さまの姿が見えたってことかな?
でも、燕みたいなこの古老さまに会えて嬉しい。
にこにこして、そこでやっと気がついた。
「もしかして、古老さま、今、ペロやテーマイとも会ってますか?」
燕サイズの頭で、古老さまは重々しく頷く。
――そうだ。私の姿は対峙する相手に依存する。故に、複数と一時に会うと、貴様らは他者を認識できない。
「はぇー!」
古老さまは見られる側だから、みんなと一堂に会えるけど、私は古老さましか見えない。
「じゃあ、おくずさまもテーマイもペロもここにいますか?」
――いる。
「なんと」
見えないテーマイやペロを探して、お花畑を見回したり、手を伸ばしたりする。やっぱり、さっぱり分からない。
「じゃあ、テーマイやペロから見た古老さまはどんな姿ですか?」
燕の目が細められた。
ニーノに冷たい目で見られるときの感じがして、背中がぞわっとする。
――貴様が聞きたいことは、それか?
はっとした。
そうだ。船を作ってみんなでここまでやって来たのは、大事な目的があります。
「違いました! エーヴェはもしかすると特性がありますよ。でも、ニーノが言うにはちゃんと使えません! りゅーさまに相談したら、古老さまなら教えてくれると言いました!」
古老の竜さまは頷く。
――事情は山から聞いている。貴様の力は私と似ている。意識の浅い次元に入り込むことができるようだ。
「浅い次元」
古老さまは辺りをキョロキョロ見回す。
――いや、深いか。単純で密度が高い次元だ。核ともとらえられる。それは全ての命に共通する。浅いが、貴様らが通常利用する次元から見るなら、深い。
ぽかんと古老の竜さまの話を聞く。
……深いけど浅い、浅いけど中心?
どこから考えていいか、さっぱり分からない。
――貴様にとって重要な点は、その結果、何が起こるのか。入り込んだ次元からどうやって元の次元に戻るか。
「そうです! さすが、古老さま!」
思わず、拍手した。
「エーヴェ、長いこと眠っちゃいますよ! りゅーさまに助けに来てもらわないといけません。それはよくないとニーノが言います」
――己の力の結果を、己で解決できないのは問題だ。
ニーノと話してるのか、古老さまと話してるのか、ときどき分からなくなる。
目で見えるのは、燕サイズの小さな竜さまだから、話の内容と見えてる物で二倍混乱です。
――貴様は技を知らないだけのことだ。
「わざですか?」
燕さまはこくりと頷く。
また、考えるように顎を掻いた。
――そうだな。窓を作れ。
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