11.黄色の花畑
ちょっぴり遅くなりました……。
花畑が輝いてる。
まるで、太陽の光を反射してるみたい。
わくわくして走りながら、はっとした。足を止める。
「あれ?」
いつの間にか、立ってる。自分の足で、地面を蹴ってる。
「おお?!」
慌てて周りを見る。腕を見る。
「おくずさま! テーマイ!」
花畑にかがみ込む。
「ペロ!」
誰もいない。荷物は体にくくりつけられたまま、腕輪も着いたままだけど、肝心のテーマイもお屑さまも、姿が見えない。
「なんですか、これは!」
みんなの名前を呼びながら、もう一度花畑を走る。
さっきまで楽しい気分だったのに、急にドキドキしてきた。
風が通り過ぎて、黄色の花が揺れる。きれいな景色なのに、なんだか不気味に思えてくる。
「おくずさまー! テーマイー! ペロー!」
呼びかけた声は、どこか遠くに吸いこまれた。
「なんと……」
黄色の花畑に、ひとりぼっちです。
口をへの字にして、その場にしゃがむ。
ちょっと考えよう。
「むむー、変ですよ」
結構走った気がするけど、花畑はずっと続いてる。
……遠くから見たとき、こんなに広かったかな?
確かに斜面が黄色に染まってたけど、走っても走っても花畑が続くのは、やっぱりおかしい。
「――危険です!」
ばっと立ち上がって、辺りを見渡す。花畑、山の斜面、灰色の山頂。
顔を上げて、空には太陽……。
ぽかんとする。
お屑さまの声が耳に轟いた。
――陽が真上に来るところなのじゃ!
今、太陽が真上にある。
*
お日さまの中で、きらっと何かが光った。
そうじゃなくて、何かが太陽を横切った。
太陽を見たせいで、目の真ん中に青紫色の穴が開き、何が横切ったのか見ようとしてもよく分からない。
何かが向かった方向を見てみるけど、青紫の穴がいつでも真ん前に来る。視界の端に注意して、キョロキョロ見た。
しゅんと、すごい速さで何かが通り過ぎた。
……飛んでる。
黄色の花畑の上を、何かが滑空してる。
何度も瞬きするけど、目の中の太陽はなかなか消えない。
「――お?」
顔に風が当たる。
ぱたぱた音がする。
……何か、飛んでる?
しっかり目蓋を閉じて、十数える。
ぱっと目を開けると、ようやく視界が元に戻った。
「おわ!」
目の前に、鳥がホバリングしてる。
薄い翼や体がツバメみたい。
……尾も二つに分かれてるから、本当にツバメかな?
首をかしげたとき、尾がツバメの頭上に持ち上がった。
まるで鳳凰の尾羽。でも、尾の先に、つやっと光る球体があった。
「目です!」
カタツムリの目みたいなのがついてる。ちょっとびっくりして、よくよく見る。
ツバメに見えたけど、ツバメじゃない。
薄い体の下には、かぎ爪のついた足がある。ひしゃげたくちばしかと思ったけど、これは牙がある口だ。
「なんと! 竜さまですよ!」
思わず、両手を差し出すと、ツバメサイズの竜さまは、ひらっと降りて来た。
人差し指をつかんで、首をかしげてこっちを見てる。
指に留まった形は本当に鳥みたいなのに、羽毛じゃなくてつやつやの鱗に覆われてるのが分かった。
黒い鱗は太陽の光を反射して、プリズムの輝きをまき散らしてる。
つやつやの目がぱちりと瞬いた。
――貴様が、エーヴェか。
響いた言葉に、びっくりする。
「なんと、ニーノです!」
しゃべり方も声も、ニーノそっくり。
――ニーノではない。貴様の記憶の中で、いちばん説明に向いている性格だ。
「性格?」
――私は大きい。それぞれの種と話すには、作法を映す必要がある。
ぽかんとして小さな竜さまを見つめる。
とっても素敵な形なのに、ニーノの口調なのは残念です。
――どうした。
「もしかして、他の性格も映せますか?」
小さな竜さまがこくりと頷く。
「じゃあ、シスを映せますか?」
――とーぜん! でも、この性格は話すのとか得意じゃねーんだよな。
「わー! シスです!」
急に気分が明るくなる。本当にシステーナがいるみたい。
「じゃあ、ジュスタはどうですか」
――エーヴェは不思議だね。映す性格を変えても、話す内容は変わらないよ?
「ふわー! ジュスタですよ!」
小さな竜さまが眉をハの字にしてる気がする。
……でも、眉はありません。
「小さい竜さま、すごいですね!」
――ありがとう。それで、エーヴェは俺が誰だか分かったかい?
はっとした。ぱたぱた瞬きする間に、小さな竜さまは首をことりとかしげる。
「こ、古老の竜さまです!」
――その通り。
ジュスタを映した古老の竜さまが、にっこり笑った気がした。
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