10.空きっ腹
やはり月曜更新になりました。このペースで続けていきます。
お腹がすいて、目が覚めた。
「……お、おくずさま、エーヴェ、お腹がすきました」
先に起きてた細お屑さまが、ぴこんっとこっちを向いた。
細お屑さまはいつもごきげんだけど、今日は特別に元気に見える。
――昨夜、何かを残したのじゃ! さっそく食べるのじゃ!
細お屑さまの助言で、はっとした。体に縛りつけた布の中から袋を引っ張り出して、探る。小さな袋に少しだけ、干した木の実が入ってる。
口に含むと、じわじわ甘みが広がった。
噛んで飲み込むのがもったいなくて、しばらくそのまま飴みたいにする。
昨日、テーマイとペロと道を急いで、丘の麓の湧き水に着いた。
遠くまで来た。
振り返っても、もうどこに船があるのか分からない。
湧き水の周りは少しだけ、木が生えていた。泉をのぞき込むと、水が砂を揺らしながらどんどん湧いてる。嬉しくなって、飛び込んだ。
みんなで水浴び。ずっと走ってたから、砂まみれです。
それから、たっぷり水を飲んだ。冷たいけど、丸いものを口に含んだ感じがする。きっと、土の下をゆっくり通って来た水です。
気がついたら、辺りはすっかり暗くなってて、食べ物がないのを思い出したのは、火を熾してから。
――朝に食べるのじゃ。朝に食べるのじゃ!
細お屑さまが主張したから、木の実は袋にしまっておいた。
やわらかくなった木の実に歯を立てる。
……残しておいてよかったです。
一握りの木の実だけど、干しブドウ系から松の実系まで混ざってるから、ちょっとは食事の気分がする。
でもやっぱりお腹は空いてる。
「おくずさま、古老の竜さままではまだ遠いですか?」
今日でたしか四日目。
出発したときの話では、四日で古老の竜さまに会えるはず。
――うむ、今日は大忙しじゃ! あとひと踏ん張りじゃ。
「食べ物は探せますか?」
――それは難しいのじゃ。昨日、行きつ戻りつしたので、今日は道を急ぐのじゃ。
……古老の竜さまは大きいはずだから、もう頭くらい見えないのかな?
立ち上がって見回すけど、湧き水の周りの木が見えるだけ。竜さまは見えない。
「むー」
ぐるるるる……
うなったら、お腹まで鳴った。
お腹の音を聞きつけたみたいに、テーマイが傍にやって来た。
――出発なのじゃ! 一日くらいの空腹は平気なのじゃ。
細お屑さまはぴこんぴこん元気いっぱい。
「エーヴェ、空腹、平気じゃないですよ」
……ニーノやジュスタが、ちゃんとご飯をくれる偉大さが分かります。
今朝も湧き水で喉をうるおして、泉から出て来た大きなペロと合流し、テーマイと一緒に出発した。
*
テーマイは丘を登る。
最初は大きかったペロは、日が昇るにつれてだんだんいつもの大きさに戻っていく。
丘の上からは、少し乾燥した冷たい風が吹いてくる。
テーマイに乗ってるから、今はとってもいい気持ち。でも、夜になったら寒いかもしれません。
空腹は波がある。とってもつらくなった後、気にならなくなって、またつらくなった後、気にならなくなる。
今は二回目の気にならなくなった期間。
――テーマイよ、あちらの岩へ向かうのじゃ。
細お屑さまは腕輪でぴこんぴこんしながら、思い出したように案内してくれる。
……何か目印があるのかな?
じっと景色に目をこらしてみるけど、薄い緑色に覆われた灰色の大地が広がって、その先には、これも灰色っぽい山脈があるだけで、特別なものは何も見えない。
「おくずさま、どうして道が分かりますか?」
――ぽ! わしは竜なのじゃ! 分かるのじゃ!
「おおー!」
さすが、細お屑さまですよ!
――む! 今度はあの頂きが輝く山のほうへ向かうのじゃ。
お屑さまが示すと、先を走るペロがきゅっとカーブする。テーマイのゆったりカーブに比べると、ペロは小回りが利く。
「もしかして、おくずさまには古老の竜さまがもう見えますか?」
――見えぬ。古老はまだ、着いておらぬ。じゃが、気配はもうあるのじゃ。とってもたっぷりとした気配なのじゃ。
「ほー……」
たっぷりとした気配。
イメージして目を閉じるけど、テーマイの揺れと空腹で、何も分からない。
また、お腹空いてつらい期間がやって来た。
「はぁー――ぁ、エーヴェ、お腹空きましたよ……」
――ふぶっ!
テーマイの首にもたれかかると、鼻息で怒られた。
「むむー……」
仕方がないから背筋を伸ばして、遠くを見る。
すると、遠くの斜面が黄色っぽいのに気がつく。
……気のせいかな?
いったん目を閉じて、開く。
「おおー!」
斜面の一角がたくさんの、丸い黄色の花で埋まってる。
草原ではたくさん咲いてたけど、丘に入って花を見たのは初めてかもしれない。
「きれいですね!」
――きれいなのじゃ! まるでお日さまのようなのじゃ。
お屑さまのぴこんぴこん速度が上がってる。
スピードを落とさないまま、ペロとテーマイは黄色の花畑に駆けこんだ。
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