表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

139/172

10.空きっ腹

やはり月曜更新になりました。このペースで続けていきます。

 お腹がすいて、目が覚めた。


「……お、おくずさま、エーヴェ、お腹がすきました」


 先に起きてた細お屑さまが、ぴこんっとこっちを向いた。

 細お屑さまはいつもごきげんだけど、今日は特別に元気に見える。


 ――昨夜、何かを残したのじゃ! さっそく食べるのじゃ!


 細お屑さまの助言で、はっとした。体に縛りつけた布の中から袋を引っ張り出して、探る。小さな袋に少しだけ、干した木の実が入ってる。

 口に含むと、じわじわ甘みが広がった。

 噛んで飲み込むのがもったいなくて、しばらくそのまま飴みたいにする。


 昨日、テーマイとペロと道を急いで、丘の麓の湧き水に着いた。

 遠くまで来た。

 振り返っても、もうどこに船があるのか分からない。

 湧き水の周りは少しだけ、木が生えていた。泉をのぞき込むと、水が砂を揺らしながらどんどん湧いてる。嬉しくなって、飛び込んだ。

 みんなで水浴び。ずっと走ってたから、砂まみれです。

 それから、たっぷり水を飲んだ。冷たいけど、丸いものを口に含んだ感じがする。きっと、土の下をゆっくり通って来た水です。

 気がついたら、辺りはすっかり暗くなってて、食べ物がないのを思い出したのは、火を熾してから。


 ――朝に食べるのじゃ。朝に食べるのじゃ!


 細お屑さまが主張したから、木の実は袋にしまっておいた。

 やわらかくなった木の実に歯を立てる。


 ……残しておいてよかったです。


 一握りの木の実だけど、干しブドウ系から松の実系まで混ざってるから、ちょっとは食事の気分がする。

 でもやっぱりお腹は空いてる。


「おくずさま、古老の竜さままではまだ遠いですか?」


 今日でたしか四日目。

 出発したときの話では、四日で古老の竜さまに会えるはず。


 ――うむ、今日は大忙しじゃ! あとひと踏ん張りじゃ。

「食べ物は探せますか?」

 ――それは難しいのじゃ。昨日、行きつ戻りつしたので、今日は道を急ぐのじゃ。


 ……古老の竜さまは大きいはずだから、もう頭くらい見えないのかな?


 立ち上がって見回すけど、湧き水の周りの木が見えるだけ。竜さまは見えない。


「むー」

 ぐるるるる……


 うなったら、お腹まで鳴った。

 お腹の音を聞きつけたみたいに、テーマイが傍にやって来た。


 ――出発なのじゃ! 一日くらいの空腹は平気なのじゃ。


 細お屑さまはぴこんぴこん元気いっぱい。


「エーヴェ、空腹、平気じゃないですよ」


 ……ニーノやジュスタが、ちゃんとご飯をくれる偉大さが分かります。


 今朝も湧き水で喉をうるおして、泉から出て来た大きなペロと合流し、テーマイと一緒に出発した。



 テーマイは丘を登る。

 最初は大きかったペロは、日が昇るにつれてだんだんいつもの大きさに戻っていく。

 丘の上からは、少し乾燥した冷たい風が吹いてくる。

 テーマイに乗ってるから、今はとってもいい気持ち。でも、夜になったら寒いかもしれません。

 空腹は波がある。とってもつらくなった後、気にならなくなって、またつらくなった後、気にならなくなる。

 今は二回目の気にならなくなった期間。


 ――テーマイよ、あちらの岩へ向かうのじゃ。


 細お屑さまは腕輪でぴこんぴこんしながら、思い出したように案内してくれる。


 ……何か目印があるのかな?


 じっと景色に目をこらしてみるけど、薄い緑色に覆われた灰色の大地が広がって、その先には、これも灰色っぽい山脈があるだけで、特別なものは何も見えない。


「おくずさま、どうして道が分かりますか?」

 ――ぽ! わしは竜なのじゃ! 分かるのじゃ!

「おおー!」


 さすが、細お屑さまですよ!


 ――む! 今度はあの頂きが輝く山のほうへ向かうのじゃ。


 お屑さまが示すと、先を走るペロがきゅっとカーブする。テーマイのゆったりカーブに比べると、ペロは小回りが利く。


「もしかして、おくずさまには古老の竜さまがもう見えますか?」

 ――見えぬ。古老はまだ、着いておらぬ。じゃが、気配はもうあるのじゃ。とってもたっぷりとした気配なのじゃ。

「ほー……」


 たっぷりとした気配。

 イメージして目を閉じるけど、テーマイの揺れと空腹で、何も分からない。

 また、お腹空いてつらい期間がやって来た。


「はぁー――ぁ、エーヴェ、お腹空きましたよ……」


 ――ふぶっ!


 テーマイの首にもたれかかると、鼻息で怒られた。


「むむー……」


 仕方がないから背筋を伸ばして、遠くを見る。

 すると、遠くの斜面が黄色っぽいのに気がつく。


 ……気のせいかな?


 いったん目を閉じて、開く。


「おおー!」


 斜面の一角がたくさんの、丸い黄色の花で埋まってる。

 草原ではたくさん咲いてたけど、丘に入って花を見たのは初めてかもしれない。


「きれいですね!」

 ――きれいなのじゃ! まるでお日さまのようなのじゃ。


 お屑さまのぴこんぴこん速度が上がってる。

 スピードを落とさないまま、ペロとテーマイは黄色の花畑に駆けこんだ。

評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。

是非、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
エーヴェが丸一日食べられないことなんて過去になかったと思うので旅にサバイバル感が増してきましたね。 こんなに頑張って耐えて愛着あるものとお別れしたのに、その上空腹とは。古老さまに会えたらお腹いっぱい食…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ