8.三者三様
またも遅くなりました……
テーマイが立ち上がって、だいぶ心強くなった。さっきまるめた草を使って、テーマイの体の汗をぬぐう。草が汗で重くなったら、また新たに草を丸めて汗をぬぐう。
五回くらい繰り返した。
……これできっと、風邪ひきません。
「おくずさま、ロデットはまだ危ないですか?」
腕輪が引っ張られるから、細お屑さまがぴこんぴこんしてるのが分かる。
――この辺りにはおらんのじゃ。テーマイはよく逃げたのじゃ。
嬉しくてにこにこしながら、テーマイの背中をたたく。
「お?」
毛がふわっと手を押し返してきた。汗を拭いたおかげだと思うと、もっとにこにこする。
ちょうど冷たい風が通り過ぎて、くしゃみが出た。
「うー……エーヴェ、荷物を全部置いてきましたよ。取りに行っても平気ですか?」
――むむ。行かねば、分からないのじゃ。今は皆でまとまって、明日に動くがいいのじゃ。
細お屑さまの言葉に頷いた。急にくたびれた気分になって、テーマイの足元に座り込んだ。
「テーマイ、休みますよ」
お腹のあたりをたたくけど、テーマイは座らない。
「テーマイ?」
ふっ!
静かに鼻を鳴らす。
――ほう! 頼もしいのじゃ。テーマイは立って眠ることを思いついたのじゃ。
「おお!」
前の世界の記憶では、動物番組で見た野生動物は、立ったまま寝てた。昨日まで一緒に横になって寝てたのは、竜さまがいて安心してたからかもしれない。
「エーヴェも立って寝ますよ」
意気揚々と立ち上がったけど、テーマイにくっついて立ってると、だんだん緊張がとれて眠くなってくる。特に、テーマイの体から伝わってくる体温はとろとろしてとても気持ちがいい。
いつの間にか眠ってて、がくっと足から力が抜けた。
ふぶっ!
――ふぁがっ!
「ふわっ!」
テーマイも細お屑さまも自分も、みんなでびっくりする。
――なんとしたことじゃ! エーヴェは座って寝るのじゃ。ペロも座っておるのじゃ。
細お屑さまの助言に頷いて、半分眠ったままで、その場にしゃがんだ。
ちょっと寒い気もしたけど、すぐさま眠りに落ちていく。
*
お腹の上に、重いものが乗ってる。
逃げようとしても手足がうまく動かない。思わず、うなった。
「うぅ……」
本当に声が耳に入って、はっと目を開ける。
青空と、透きとおって青空色のペロが見えた。ペロがお腹の上に乗っかって、なぜかリラックスモード。
「むおっ! 朝です!」
体を起こすと、ペロがぼてんと落ちていった。
――ふぁが! なんじゃ!
細お屑さまの頭がぴょんっと立ち上がる。
草原の真ん中で、細お屑さまと熟睡してたみたい。
「なんと、もう朝ですよ!」
――お日さまがずいぶん高いのじゃ。すっかり眠っておったのじゃ。
ペロが退いたせいか、急にお腹がぐーっと鳴った。
体を探って、水筒を見つけ、飲む。
くろろろろ……
水を飲むと、さっきよりひどい音が鳴った。
「大変なことですよ。エーヴェ、食べ物が要ります」
――昨夜の場所に戻ってみるかや?
「おくずさまは、昨夜の場所、分かりますか?」
テーマイが一生懸命逃げてくれたから助かったけど、どっちに逃げたかは全然分からない。
――分かるのじゃ。古老への道は決まっておるゆえ、どちらにせよ戻るのじゃ。
「ほほう!」
ロデットがもういないといいな。
立ち上がると、離れたところで草を食んでるテーマイを見つけた。
「テーマイ! おはようございます」
テーマイは顎をむしゃむしゃ動かしながら、こっちを見てる。
気になって後ろに回った。左のお尻に一か所、地肌が見える場所があった。
……ここにケガしたんだ。
「本当に治ってますよ」
――うむ! ペロの力なのじゃ。
足元のペロを見る。昨夜はロデットの足を引っかけたり、テーマイのけがを治したり、大活躍。
テーマイはたくさんのロデットから逃げて、大活躍。
そこで首をかしげる。
エーヴェは?
――ぽはっ、テーマイは足が良いのじゃ。ペロは水が良いのじゃ。エーヴェは手がよいのじゃ。
細お屑さまの言葉に、首を反対に傾ける。
「エーヴェは手がいいですか?」
――たくさんの物がつかめるのじゃ。穴が掘れるのじゃ。三人三つ良いところじゃ。古老は慧眼なのじゃ。
細お屑さまは軽快にぴこんぴこんしてる。
「おお! おくずさまは知恵がいいですよ! 四人四ついいところです!」
――その通りじゃ! やはり古老は慧眼なのじゃ!
細お屑さまの大喜びが伝染して、うぉっほっほっほした。
四人四つの良いところ。
――エーヴェよ。ペロは水が欲しいのじゃ。分けてやるのじゃ。
「なんと」
それで足元でじっとしてました!
慌てて、水筒を取り出し、最後に残った水をかけた。
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