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6.襲撃

少し短めです。

 テーマイの身じろぎで目を覚ました。冷たい空気に溶けて、テーマイの体から普段と違う匂いがする。


 ――おお! エーヴェよ! 起きたのじゃ!!


 細お屑さまが高速でぴこんぴこんしてて、ちょっと夢の中みたい。


「暗いですよ……」


 焚き火はほとんど燃え尽きてる。

 星を見ると、眠ってからそんなに時間が経ってないみたい。体がまだ眠ってるのか、とても動きにくい。


 ――これ! 眠ってはいかんのじゃ! 急ぐのじゃ!

「どうしましたか?」


 細お屑さまの言葉に目の周りをごしごしする。

 テーマイの緊張が体に伝わってきて、瞬いた。

 よく見ると、ペロもちょっと角張ってる。

 だんだん目が冴えてきた。


 ――逃げるのじゃ! 急ぐのじゃ!


 テーマイがとうとう立ち上がった。耳をパタパタ動かし、周囲を警戒してる。

 まだまとわりついてくる眠気を首を振って払いながら、よろよろ立ち上がった。


「逃げる……?」

 ――ロデットの一族じゃ! エーヴェなど、ぺろりなのじゃ!

「――なんと?」


 慌ててテーマイを振り返る。テーマイはいつの間にか岩の傍に立ってて、耳をぴんと緊張させてる。


 ……乗せてくれるつもりです!


 鞍を拾おうとしたら、細お屑さまが高速ぴこんぴこんにはばまれる。


 ――猶予がないのじゃ! 鞍は捨て置くのじゃ!


 目を見張って、駆け出した。

 そのとき、草の茂みが揺れた。黒い影が飛び出してくる。

 地面すれすれに影が走って、一瞬で足下に迫った。


「なんですかー!」

 ――ロデットなのじゃ!


 かっと口を開いた影から、獣の匂いが立ち上って、鳥肌が立つ。


 ……咬まれる!


 でも、ロデットはがくんと急停止して、顎は空を切った。

 テーマイに駆け寄りながら、振り向く。


「ペロ!」


 ……ロデットの足を飲み込んでくれました!


 すぐにぺっと吐き出して、ジグザグにこっちへ走ってくる。

 岩の上にからテーマイの背中に跳び乗ると、テーマイはすぐさま走り出した。

 最初から全力で走ってる。慌てて、テーマイの首にしがみついた。


 ――左なのじゃ!


 細お屑さまの言葉に、テーマイは右へ大きく跳ねる。

 草むらから飛び出した影をぎりぎりで避ける。そのまま、疾走。


「テーマイ! 頑張れ!」


 いつの間にか、たくさんのロデットに囲まれてた。さっきまでと同じ場所だと思えない。ントゥより大きい四つ足の獣。犬みたいに見えるけど、尻尾は短い。

 最初は気配もしなかったのに、今は何匹もで、吠えながら追いかけてくる。

 ……心臓がばくばくうるさい。


「お、おくずさま! どうにかできますか?」


 テーマイはときどき大きく跳び上がるから、舌をかみそう。


 ――どうにかとは何じゃ?

「追い払えませんか?」

 ――せぬのじゃ。ロデットは狩りをしておるのじゃ。エーヴェは頑張って逃げるのじゃ!


 ぱたぱたしながら、細お屑さまはとても公平だ。


「エーヴェが食べられたら、古老の竜さまに会えませんよ!」

 ――それは困るのじゃ! 頑張って逃げるのじゃ!

「むむー……」


 ……竜さまだったらきっと助けてくれます。

 でも、竜さまの近くだったら、きっと初めからロデットの狩りの標的にならない。

 ――竜さまは偉大。


「テーマイ! 頑張りますよ!!」


 必死でテーマイが逃げ切れるように祈った。



 どれだけ走ったか分からない。

 さっきから腕が汗で滑る。テーマイの汗なのか、自分の汗なのか分からない。

 ようやくテーマイが足を止めた。


 ――もう大丈夫なのじゃ! よくやったのじゃ、テーマイ! よくやったのじゃ、エーヴェ!


 細お屑さまの声を聞きながら、テーマイの背中から滑り落ちる。

 地面に寝転がって、夜空を見た。必死でテーマイにつかまってたから、腕がぷるぷる震えてる。


「……テーマイ、大丈夫ですか?」


 地面から体を起こして、テーマイに近づいた。

 汗をぬぐってみると、左の腿と右後脚から血が出てるのに気がつく。


「テーマイ、ケガしてます!」


 ――ふぶっ!


 テーマイは鼻を鳴らして、その場に蹲った。

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― 新着の感想 ―
危険が迫ったらとんがるペロ、初めてかも。テーマイからいつもと違う匂いがするっていうのが臨場感高めててヤバい状況なんだって悟らされます。 ペロ、テーマイ頑張った。こんな時に野生生物の問答無用の本能が強い…
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