5.二日目の夜
まずは週一ペースで更新していきます。よろしくお願いします。
最初は泥水だったけど、湧く量が増えると水はだんだん透明になる。ペロは泥水でも構わず飛び込んで飲んでた。
「テーマイ、お水ですよ」
声をかけると、テーマイがこっちにやって来る。水を飲むテーマイの横で、砂まみれになった腕を洗う。小さい穴にみんな押しかけてるから、狭苦しい。でも、すごく大事なものを掘り当てた気分がして、ちょっと誇らしい。
「お屑さま、どうしてこの木の下に水があるって分かりましたか?」
――ぽ? この木の下には水脈があるのじゃ。当たり前なのじゃ。
どうしてこの木の下に水があるのかは分からないけど、あることは確かなんだ。
「じゃあ、木を覚えれば水が探せます!」
立ち上がって、しっかり木の様子を見る。葉っぱは枝に対して対称にたくさんついてる。一つ一つはしっかりしてて、オリーブに似てるかな。枝の節にはトゲが葉っぱに混じってついてるから、食べるとしたら結構痛そう。指を伸ばしてトゲを触る。
……うん、固い。気をつけます。
枝から、幹に目を移す。白っぽい木肌で縦方向に避けたように表面に筋が走ってる。古い木の皮は、層になって薄く浮き上がって、剝がれ落ちる。
――エーヴェよ、遠くからも見てみるとよいのじゃ。木を探すときは遠くから見るのじゃ。
「おお! さすがお屑さまですよ!」
木の全体が分かるように、走って離れた。
幹はそんなに太くない。枝を大きく広げてる。葉っぱは茂ってるけど一枚が親指サイズだから、枝の形がよく分かって、邸の木に比べるとスカスカに見える。
観察してたら、テーマイが首を上げてこっちに走ってきた。
ふぶっ
鼻を鳴らして、顔をのぞき込んでくる。
「テーマイ、どうしましたか?」
声をかけると、耳をパタパタした。周囲を見渡し、しばらくすると、木の下に戻り始める。
「おお、エーヴェ、テーマイに心配されました!」
――うむ、そうなのじゃ。なぜ分かったのじゃ?
細お屑さまに聞かれて、嬉しくなってにこにこした。
*
水をくんだら、また出発。草原を走るのはやっぱり気持ちがいい。
あと二日で、どのくらいの道を進むのか考えてみる。
……山に古老の竜さまがいるのかな?
――古老は山にはおらぬのじゃ。
聞いてみると、細お屑さまはパタパタ風に吹かれながら答えた。
お屑さまたちはあんなにぱたぱたしてて、目が回ったりしないのかな?
でも、風に飛ばされるたびに気分が悪くなってたら大変です。
「じゃあ、古老の竜さま、どこにいますか?」
――もうおるのじゃ!
首が傾く。
山にはいない。でも、もういる。
――エーヴェは古老のところに向かっておるのじゃ。案ぜずともよいのじゃ。
「むー。不思議ですよ」
――ぽはっ! 人間は何でも不思議がるのじゃ! 古老はとても大きいのじゃ! 見えずとも不思議でないのじゃ。
小さくて見えないは分かるけど、大きくて見えないはよく分からない。
――それよりも、エーヴェよ、少し急ぐのじゃ。水を掘ったゆえ、少しのんびりしたのじゃ。今日の寝床に間に合わぬ。
「お! 分かりました。テーマイ、急いでください」
気のせいか、流れる景色が少し速くなる。
ペロが忙しなくジグザグを刻んで、テーマイの前を行く。見上げた空は、確かに少し色が変わっていた。
*
今日の寝場所は草原の真ん中。少しだけ窪地になってて、丈の高い草が生えてる。
草を押し倒して場所を作り、テーマイに預けた荷物を降ろす。それから火の準備をして、焚き火を熾せた頃には、周囲はすっかり暗くなってた。
昨晩は木があって、風よけの丘もあって、すごく安心だった。今日は頭上がぽっかり全部、星空。火の粉が空に吸いこまれる。眺めていると、なんだか力が抜けてきた。
――エーヴェよ、なにゆえ口を開けておるのじゃ? 邪気が入るのじゃ!
はっと口をつぐむ。
――ぼうっとしている暇はないのじゃ。テーマイの汗を拭いてやるのじゃ。
「そうでした!」
火を眺めるのは、テーマイの汗を拭いて、お湯を沸かして、ご飯を用意してからだ。まだまだやることがある。
もう火の傍に来て暖まり始めてるテーマイの汗をぬぐった。それから、火に鍋を掛け、水をあけると、お腹が大きな音を立てた。
お屑さまがぴこんっと跳ね上がる。
――ぽ! 雷なのじゃ!
「違いますよ! エーヴェのお腹が鳴りました!」
――なんと! 威勢のいいお腹なのじゃ。
細お屑さまの言い方が面白くて笑う。
全部の食料を広げてみて、トウモロコシパン二枚とジュスタ特製ソースと干し野菜を取り分ける。木の実も出して、テーマイにひとすくい差し出した。鼻を伸ばして、興味がありそうだったから、器に入れて地面に置く。自分用にもちょっと取る。カップに干した香草をパラパラいれて、沸いたお湯をひとすくい。かけた瞬間、一気に、いいにおいが窪地に広がった。
――おお、よい波なのじゃ。
細お屑さまが香りに反応する。
「いい波ですか?」
――うむ。よい波なのじゃ。気分がよいのじゃ!
人間のいい香りが、お屑さまにもいい波なのは嬉しい。
にんまりして、鍋に残った湯に干し野菜をナイフで切りながら落とし込む。トウモロコシパンにジュスタ特製ソースを塗って、木の実を散らして、サンドイッチにした。
お湯がぐつぐつしてから塩を入れて、夕ご飯のできあがりだ。
カップを手に取ると、香草は底に沈んでる。残った葉の欠片を息で吹き飛ばして、口に含んだ。
お腹に熱が下りていく。
にこにこして、火を眺めた。
――星空が近い。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。




