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4.穴掘り

たいへん長らく更新停止しており、申し訳ありませんでした。

ようやく少し環境が整ったので、ぼちぼち再開していこうと思います。

またご贔屓いただけると幸いです。

 昨晩小さくしておいた火に、枝を足したり息を吹きこんだりして大きくする。

 お湯を沸かす間にテーマイがやって来て、火の暖かさでくつろぎはじめた。


「朝は寒いですね」

 ――朝はすがすがしいのじゃ。


 細お屑さまはごきげんに、ぴこんぴこんしてる。

 朝ごはんは、干した木の実と干し肉。せっせと顎を動かしてるうちに、やる気が満ちてくる。


 ……ニーノたちは何を食べてるかな?


 想像してたら、ペロが竜さまの足跡からようやくこっちへ来た。


「ペロ、水が要りますか?」


 声をかけると、ペロは鉢からうぞうぞ出てくる。

 言葉が分かるのか分からないのか、わからない。


「そういえば、ペロはお湯は飲みますか?」


 ペロは透明のまま。何も浮かんでこない。

 マレンポーの特性が働いたら、気分が分かったかな?


 ――ペロには水でよいのじゃ。急に熱いのがくると、びっくりなのじゃ。


 細お屑さまが代わりに答えてくれたので、器に取り分けて温くなった水をかけた。

 するする吸いこんで、満足したみたいに鉢に戻っていく。


「テーマイはご飯食べましたか?」


 体の向きを入れ替えて、満遍なく火に当てているテーマイが、片顔だけこっちに向けた。

 ぶふっと鼻を鳴らされる。

 ……テーマイはしっかり者だから、たぶん大丈夫。


「おくずさま、今日はどこまで行きますか?」

 ――どこまでではないのじゃ。今日のところまでじゃ。行けるところは決まっておるのじゃ。お日様があまり上らぬうちに出発なのじゃ!


 急かされて、慌てて立ち上がる。

 荷物をまとめて、テーマイに預け、焚き火を始末して辺りを見回す。足場になる岩を見つけて、テーマイを呼んだ。

 のんびりだけどちゃんとこっちにやって来て、背中に乗せてくれる。

 ……感動です!


「どっちに行けばいいですか?」


 細お屑さまに聞いてるうちに、ペロが走り出してる。

 テーマイもつられて動き出す。


 ――そっちではないのじゃ! 山へ向かうのじゃ!


 ぴこんぴこんする細お屑さまの声に、ペロが急カーブした。

 テーマイはゆるいカーブで追いかける。

 ゆらゆらする一日の始まりだ。



 ペロは今日も先を走るつもりみたい。

 茂みの草漏れ日(?)で、鉢がきらきら光ってる。

 視線を上げると広々とした高原が続くけど、昨日より木を見かけるようになった。

 草原に点々と、木と灌木の茂みがある。

 小高い丘には、後ろ足で立ってこちらを見ているネズミかウサギの仲間がいた。ントゥより一回り大きなキツネが、草むらを走るのも見た。近くの草むらから跳び出すキリギリスもいる。

 ペロが上手いことキャッチして、いつものように吐き出した。


 ……走りながらでも飲み込めるなんて、ペロ、すごい。


「生き物がいっぱいですね」


 (やしき)の森を思い出す。


 ――()(はせ)の座ゆえ、当然なのじゃ。


 ふぶぶっ! す、す


 テーマイが鼻を鳴らす。

 細お屑さまはぽはぽは笑った。


「……テーマイ、何か言いましたか?」

 ――人間の目は鈍いゆえ、よく見えぬと言ったのじゃ。開けた場所でやっと見えるのじゃ。エーヴェは騒いでおるが、いつでも生き物はたくさんおるのじゃ。

「おお……」


 さっきの鼻息に、そんな意味があったなんて。

 でも、唇がへの字になる。


「エーヴェ、森にも生き物がいっぱいだって知ってますよ! テーマイは口が悪いです」


 憤慨すると、細お屑さまはぽはぽは笑った。

 テーマイが耳をぱたぱた動かした。

 ……この動作の意味も、そのうちに分かるようになるのかな。

 そうだったら、とっても嬉しい。



 日が高くなって、着てた羽布を脱いだ。山から吹いてくる風が、心地いい。


「テーマイ、そろそろ休憩しますか」


 背中に乗ってるだけで汗が出てくる。きっとテーマイはもっと大変だ。


 ――うむ。エーヴェの言う通りなのじゃ。しかし……むむ――。


 何やら考えてた細お屑さまが、ぴこんっと伸び上がった。


 ――あの木がよいのじゃ! ペロ、テーマイ! あの木の下に行くのじゃ。


 あの木がどの木かさっぱりだけど、ペロもテーマイも、同じ方向へ走っていく。

 やがてたどり着いた木は、幹は太くないけれど、たくさんの枝をいっぱいに広げてた。


「お! とげとげです!」


 ユーカリみたいに、枝の節々にトゲが密生してる。


 ――エーヴェ、下なのじゃ。砂を掘るのじゃ。


 トゲに気を取られていたら、細お屑さまに注意された。

 テーマイの背中からずり落ちて、地面を見る。

 草の合間に、白い砂の地面が顔をのぞかせてた。


 ――この木の下には水脈が走るのじゃ。白い砂を掘ってみよ。たくさん掘るのじゃ。水があるのじゃ。


 まず荷物の中の水をテーマイにあげて、砂のそばにしゃがみこむ。


 ――時折水が湧くゆえ、固くないのじゃ。エーヴェでも掘れるのじゃ。

「おお!」


 心配してたけど、細お屑さまの言葉に勇気が出た。

 手をシャベルみたいにして、砂にくぐらせる。

 確かにとても固くはないけど、掘れば掘るほど大変になる。


 ――よいぞ! がんばるのじゃ! ……もそっと広く掘るのじゃ!


 細お屑さまは盛大に応援してくれる。

 地面に顔を近づけてるせいか、テーマイが草をかみちぎってる音が聞こえた。

 ぶちっぶちっという響きに合わせて、手を動かす。

 ときどきペロがやって来て、神妙に止まってから、またどこかに行ってしまう。


 ぶちっ、ぶちっ

 すさささ――


 二の腕まで穴に収まる深さになると、砂の感触が変わった。

 じゃりじゃりしてる。

 それに、湿り気が出てきた。


 ――砂の色が変わったのじゃ。もう少しなのじゃ!


 細お屑さまの声に自信を持って、もう一度穴にかがみ込む。


「……あ!」


 肩まで穴に入った頃、すくった指先に水が触れた。

 かき出した泥は、水混じりだ。


 ――水なのじゃ!

「やりました!」


 二度生まれて、初めて水を掘り当てた。

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― 新着の感想 ―
ペロやテーマイが何と言っているかわからないけど、エーヴェの問いかけに答えてくれて会話やコミュニケーションをしてくれるだけでも嬉しいなって思いました。 エーヴェにはどうせわかんないとスルーするのじゃなく…
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