3. 大きな足跡
ずいぶん遅くなってしまいました。
あったかい気配が消えて、眠りが浅くなった。
目を開けると、よじれた木の枝が見える。まだ灰色の空に、黒い枝がおおいかぶさってる。
眺めてるうちに、だんだん空の色が白っぽくなってきた。
ぽろん、と顔に何か当たった。
「うわ! 露です!」
アミョーの羽布の上には、びっしり細かな露が降りてる。ちょっとの動きで隣同士が触れ合って、大きな露にまとまり、最後は滑り落ちていく。
体はポカポカしてるのに、羽布は水をはじいてる。
「羽布はすごいですよ」
……戻ったら、マレンポーにもう一回お礼を言いますよ。
立ち上がると、露は全部落ちてしまった。
落ちながら、きらっと光った気がする。
「お? お日様です!」
目を上げると、地平線に明るい光がもれて、どんどん広がっていく。
空の色がみるみる変わる。
――ぽがっ! 朝なのじゃ!
「あ、お屑さま、おはようございます」
ぶらぶら寝てたお屑さまがぴこんっと顔を上げた。
「エーヴェ、おはようなのじゃ! 皆もう起きておるのかや?」
一緒に寝てたテーマイとペロ。
眠ってた丘の陰を離れてるみたい。
草原を見ると、薄桃色の空の光を背景に、テーマイが毛づくろいをしてる。
「テーマイ! おはようございます!」
……ふぶっ!
声に応えて、テーマイが顔を上げて鼻を鳴らした。
耳をパタパタしながらしばらくこっちを見てたけど、また毛づくろいに戻る。
「テーマイ、ペロを知りませんか?」
近づいてもテーマイは気にせず毛づくろい。
一瞬顔を上げて、鼻をお日様のほうに向け、また背中をなめ始める。
「もしかしてあっちにいますか?」
テーマイに聞くと、また顔を上げて、瞬きする。
仕方ないな、という感じで歩き始めた。
「お、テーマイが案内してくれますか」
――ぽはっ! エーヴェは恵まれたのじゃ。テーマイは相手ができることは手助けしないのじゃ。今回は妥協なのじゃ。
ふんっ!
テーマイが鼻を鳴らした。
「あ、草が揺れてます」
草むらがふよふよと不規則に揺れてる。
「ペロー? いますかー?」
草むらが割れて、ガラスの鉢が顔を出した。
「ペロ! おはようございます!」
駆け寄ると、ペロはしゅっと草むらに戻る。
「なんと。追いかけっこですか?」
――うむ! きっと見せたい物があるのじゃ。
細お屑さまと一緒に草むらに入った。
「おお! おっきな足跡です!」
五歩も歩かないうちに、草むらが大きくへこんでるのに出くわした。
うっすら五本指の形が分かって、真ん中でペロがリラックスモードになってる。
「む! きっとこれはりゅーさまの足跡ですよ!」
ペロがリラックスモードになってるから、きっと危険な物じゃないです。
――なんと! エーヴェよ、よく分かったのじゃ。さすがは山の付き人なのじゃ。
「おお。本当にりゅーさまの足跡ですか! りゅーさま、ここに来ましたか?」
見回しても、当然、竜さまの影も形もない。
――うむ! 真夜中に影が飛んできたのじゃ。
「お影さまですか?」
――エーヴェやテーマイやペロが船から離れておるので、探しに来たのじゃ。山はそれを追いかけて、船に連れ戻したのじゃ。影は焚き火の近くまで来て、ぶーぶー鳴いておったのじゃ。わしはすっかり目が覚めたのじゃ! 困ったことなのじゃ。
「えー! エーヴェ、気がつきませんでしたよ」
――エーヴェもテーマイも疲れてぐっすりだったのじゃ。わしだけ起きたのじゃ。大変困ったことなのじゃ。わしと山とで言い含めて、影を帰らせたのじゃ。
……お影さま、心配して来てくれたのかな?
「エーヴェもお影さまに会いたかったです」
――あんなにぶーぶー言われて起きなかったのじゃ! 無理な話なのじゃ! 帰ってから、いっぱい遊ぶとよいのじゃ。影はよい竜なのじゃ。
「はい、そうしますよ」
ペロと一緒に大きな足跡の真ん中に立って、高くなるお日さまを眺めた。
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