11.うっかり竜さま
大晦日になんとか更新できました。今年はありがとうございました。
来年は辰年ですね! いっぱいドラゴンに活躍してもらえるように頑張りたいと思います。
船の傾きがまた変わる。竜さまが見えなくなってしまった。
廊下の向こう側から、きゃっとントゥの声が聞こえる。あれは嬉しい声だから、お骨さまが見えたのかも。
「どのくらいで地面に降りますか?」
お屑さまはぴこんぴこん地面を眺める。
――燃えておらぬ場所に降りるがよいぞ! 小さき童では燃えるかもしれぬぞ! ぽはっ! ぽはっ!
「おくずさまも小さいですよ! 燃えませんか?」
――わしは屑じゃが、竜なのじゃ! 大地のかっかくらいならば平気なのじゃ!
「おー!」
お屑さまの見た目は昆布かわかめみたいだけど、人間よりずっと強い。海の中や動物のお腹の中にいても、平気だもんね。
「おどろさまはどうですか?」
お泥さまも竜だけど、いつも水に入ってる。
――ぽはっ! 泥はだめなのじゃ! ふよふよと飛んで逃げるのじゃー! ぽはっ! ぽはっ!
「おお……」
お泥さまが宙に浮いてるのは見たことある。あんな感じでゆっくり逃げるんだったら、ちょっと気の毒だ。ん? でも、もしかしたら、ルピタが言ってた雷の羽を生やしたお泥さまが見られるかもしれない。
足下から、どごっどごっと大きな音が響いてきた。床を蹴ってるみたい。テーマイかな?
「おくずさま、テーマイがどこか分かりますか? 大丈夫?」
聞きながら、一応、様子を見に向かう。
――下におるのじゃ! さっきから船が傾くゆえ慌てておるが、平気なのじゃ!
甲板に出る扉の前では、まだペロがリラックスモード。扉が開いたら外に出ようと待ってるのかも。
「テーマイー! 大丈夫ですか?」
坂になった廊下をのぞき込んでテーマイを呼ぶ。
「うわ、大変です!」
テーマイが食べてた枯れ草の山が、あっちこっちに散らかってる。戻そうかなと立ち止まって、やめた。
また移動するもんね。
「テーマイー!」
ことことっと床が鳴って、廊下の影からにゅっと首が出てきた。耳がこっちを見てる。
「テーマイ! よかったー!」
駆け寄ると、テーマイも近づいてきた。体のあちこちに枯れ草がくっついてる。
――枯れ草が降り注いできたのじゃ!
お屑さまに鼻を寄せながら、テーマイは体をぷるぷるっと震わせた。また枯れ草がまき散らされる。
ふんふん鼻を鳴らすテーマイを見てたお屑さまが、ぴんっと伸び上がった。
――おお! テーマイは鼻が良いのじゃ! 何やら危うい匂いがすると言うぞ! 大地のかっかからガスが出ておるのじゃ!
「え! エーヴェ、息止めます!」
むっと口を噤むと、テーマイから湿った鼻息をかけられた。
――痴れ者め! 息を止めたら死ぬるのじゃ!
「む! そうですね」
――そうじゃ! まずは、船の外じゃ! 山よ! 山よ!
お屑さまが高く伸び上がって、竜さまに声をかける。
――屑よ。何を騒いでおる。
しばらくして、どっしりした竜さまの声が頭に響いた。
――大事ゆえ騒ぐのじゃ! 何やら危うい匂いがすると言うぞ! 周りを見るのじゃ!
――うむ?
頭に響く声を聞いてたら、前髪がテーマイの鼻息で持ち上がったので、にっこりする。テーマイが耳をふるふるしてるから、もしかしたらテーマイにも竜さまの声が聞こえてるのかも。
――む……。なるほど。うっかり好きな匂いにつられたようである。
――この、痴れ者め! お主の好物は、毒なのじゃ!
お屑さまが怒ってる。
「お? もしかして、硫黄ですか?」
ニーノが前に怒ってたことを思い出す。竜さまが硫黄を食べると、硫化ガスが吹き出るからしばらく近づけなくなっちゃう。
「大変ですよ! りゅーさま、硫黄を食べますか!」
――うむ? うむ、あれば食べるのじゃ。
むー、やっぱり食べたいんだな。
――少しマシな場所を選ぼう。
――選ぶのじゃ! 選ぶのじゃ!
お屑さまがはやしたてる。
――うむ。皆、こちらじゃ。
ゆっくりと船の向きが変わった。竜さまの指示で、大人たちが船を操作したんだな。
風向きが変わったせいか、がたがたと窓が鳴った。思わず目を向ける。
ぱっと青空が見えた。
「お天気です!」
――おお! 雨雲を抜けたのじゃ!
さっそく階段に向かう。
雨が降ってないなら、甲板に出てもいいかも。
「テーマイも一緒に来ますか?」
声をかけて、手すりに手をかけた。
――童! 縄をつけるのじゃ! 甲板は風が強いのじゃ!
「もちろんです!」
ハーネスを着けてると、テーマイも階段を上ってきて、ントゥも駆け寄ってきた。ハーネスのつなぎ目を確認して、甲板への扉を開ける。
「ぶおー!」
風と雨が吹き込んできて、ひっくり返りそう。
「雨、止んでないですよ!」
でも、次の瞬間、青い光が目の前いっぱいに広がった。
雨雲を突き抜けたみたい。
――シス! 童が外に出るのじゃ! 手伝いに来るのじゃ!
風にパタパタしてるお屑さまが叫ぶ。
顔に当たった霧みたいなしぶきをぬぐってると、甲板にどんっと何かが落っこちてきた。
「外に出ちゃあ、危ねーなーお屑さま」
体から湯気を立ち上らせながら、システーナが立ってる。
「おお、シス!」
――危ないのはわしではないのじゃ! 童なのじゃ!
「おちびはハーネス着けてっだろ。お屑さまは、うっかり飛んじまう。で、どした?」
――なんじゃと! わしはうっかり飛ばないのじゃ!
「りゅーさまがマシな場所に行きます! 見に来ました!」
ぷんぷんパタパタしてるお屑さまを放って話してる間に、システーナがさっと動いた。階段を駆け上ったントゥが、強風で飛ばされたのを捕まえる。
――おお、シス、上手なのじゃ。
甲板のすれすれを飛んだお骨さまがかたかた顎を鳴らした。
そのまま、すうーっとお骨さまが船首方向へ飛び去る。
お骨さまにぶんぶん手を振って、システーナは船倉にントゥを放り込んだ。怒ったントゥの吠え声が聞こえる頃には、扉が閉まってる。
――むむ? 雨雲を抜けたが蒸し暑いのじゃ。
なんだか、さっきよりはっきり硫黄の匂いがする気もする。
「マシな場所ってのはあれかなー?」
システーナが額に手を当てて眺める方向を、一緒に眺めた。
「わー! きれいな色です!」
うっすらと霧がかかるような視界の先に、雲が海に溶けたみたいな湖があった。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。