18.実験終わり
離れた場所に行ってたニーノとカウが戻ってきた。
カウは走ってくる。
「はいはーい! 歌うぜー!」
いつの間にか、カウもやる気。面白くなってきたのかも。
歌い出した言葉は全然聞き覚えがない。
前の世界で聞いた言葉で近いのは、ベトナムやタイの言葉かな。
ニーノの前にいた世界の歌なのかも。
……長いこと離れてたのも、言葉が分からなくて覚えるのに時間がかかったせいかな?
歌詞の意味を想像してるうちに、目蓋が落ちる。
*
「起きろ。エーヴェ」
「ふぁっ!」
ニーノに肩を揺すられて目が覚めた。
思わず、目をしばたく。
花畑は薄闇に包まれて、空が沈んだ陽の光でかすかに明るい。
「あれー? 寝ちゃいました」
「なぜか貴様がいちばん長く寝ていた」
「なんと。実験は終わりましたか?」
眠ってる間に結論が出たのかな。
「そうだな。私は眠らずに貴様らは眠った。マレンポーの説のどちらか分からないが、歌を知っていれば眠らずに済むのだろう」
「おおー!」
「カウが眠らずに歌えることにも理屈が通る」
「そうですね。じゃあ、シューマの手術ができますか?」
「おそらく」
「おお、やりました!」
跳び上がって、うぉほっほをする。
「帰るぞ」
「はい。シスももう起きましたか?」
「ああ、お屑さまがたの様子を見に行った」
「おお!」
ニーノと船に戻りながら話す。
「細お屑さまと幅太お屑さまは寝てましたか?」
ニーノがちょっと眉根を寄せた。
お屑さまにあだ名をつけるのがだめなのかも。
「他の二人のお屑さまも眠っておられた」
「おおー。ということは、九九七のお屑さま、みんな寝てるかもしれません」
「確かに」
世界中に散らばってるお屑さまが一斉に眠ってたら、とっても面白い。
「特性は奥が深いです」
「そうだな。カウの特性は、きちんと把握すればもっと広がるものかもしれない」
「ニーノも特性でいろいろ実験しましたか?」
ニーノはしばらく黙って歩く。
見回りアミョーの数羽が、どっどっどっと通り過ぎた。
「そうだな。初めはいろいろ試した」
「ニーノは特性をいろんな使い方しますからね。エーヴェも古老の竜さまに会ったら、いろいろ試しますよ」
ニーノは黙って頷き、こっちを見下ろしてきた。
「エーヴェ、特性は竜さまの力だ。敬意を持って使え」
「はい! 大事にします」
竜さまの付き人になれただけで嬉しいのに、竜さまの力を分けてもらってるなんて、とてもすごい。
「エーヴェはりゅーさまが大事ですからね!」
「ああ、そうだ」
船に近づいたときに、地面が震えてるのに気がついた。
「お? これはおかげさまですよ!」
不満のマナーモード。
……どうしたのかな?
「――はい。竜さま」
ニーノが立ち止まる。
竜さまからテレパシーです。
「なるほど。分かりました」
「何ですか?」
「お影さまが布がなくなっていることに気がついて、ご不満だ」
「あはははは!」
お影さま、布のこと忘れてません。
「笑い事ではない。私はお影さまのところに行ってくる」
「エーヴェも行きます!」
戻れと言われなかったので、ついて行く。
*
ぶー! ぼっぼっ!
ニーノの姿を見つけると、お影さまがさっそく不満を表明する。
「はい」
ぶー! ぶー!
「残念ながら、お影さまに着けられる布がありません」
――うむ。ニーノは余りがあったら、影につけたにちがいない。
竜さまが口添えしてくれる。
ぶー!
お影さまが羽をバタバタして、ニーノの髪が揺れた。
「申し訳ありません」
「何やってんだー?」
船の甲板からシステーナが飛び降りてきた。
「お影さま、布がなくなって不満ですよ」
「だが、余っている布はない」
「へー、それで怒ってんの」
ぶー!
――まったく! 影はヒナなのじゃ! 竜は何も着けずとも万全なのじゃ。
お屑さまの言葉を聞いて、お影さまは首をかしげた。
……ぶー!
やっぱり納得できないみたい。
「まーとりあえず、これ巻いとくか?」
システーナがいつも腕にまいてる長い紐を、お影さまの尻尾の先に結わえつける。
お影さまは自分の尻尾の先に、ちょんと巻かれた紐を眺めた。
指につけた輪ゴムくらいの感じ。
……ぼ
明らかにしぶしぶ、しっぽを降ろす。
いつか余り布ができたら、素敵な色に染めてお影さまにあげたい。
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是非、よろしくお願いします。




