16.実験あれこれ
カウの歌を聞いて、どんなとき寝なくて済むのか。
この問題を解決するために、実験をします!
まずは基本。急に寝て地面に倒れないように、みんなで座る。
それから、歌い方を変えてカウに歌ってもらうことになった。
「カウが小さい声や、弱い気分で歌うと眠くならないって、マレンポー、前に言ってました!」
「そうです! カウ、やってみてください!」
「……えーい」
やる気のなさそうなカウが、マレンポーの力強い催促で、歌い始める。
作業のときに口ずさむくらいの小さな声。
「おお、いい声ですよー」
にこにこ聞いてるうちに、ゆったりした気持ちになって、目蓋が重くなる。
「――エーヴェ」
「ぅおっ! これは寝ますよ!」
「うわっ! 寝てた!」
――ぽはっ! シスはよく寝るのじゃ!
システーナの腕で、お屑さまが得意げに笑ってる。
「ほーら。小さい声で歌っても眠くなんだろ?」
「そうですね」
今度は耳にせんをします。
木の欠片で作ったせんを耳にはめて、カウに合図。
「歌うぜー」
遠くはなったけど、カウの声が少し聞こえる。
やっぱり木だと耳にフィットしないのかな。
まもなく、お屑さまがてろーんと垂れた。
……そういえば、お屑さまは耳せんができない。
花畑に横たわったお屑さまを眺めてるうちに、頭がくらっと揺れる。
うとうとしてきた。
「そこまでに」
ニーノの声でびくっと顔を上げた。
「さっきより長く眠らなかったが、やはり眠気があるな」
「じゃあ、今度はせんの材質を変えてみましょう!」
「ふわー。もう昼寝したくなってきた」
大あくびのペードと対称的に、マレンポーはすっかりやる気になってる。
……うーん、実験が好きなのかも。
今度は、アミョーの羽の一番柔らかいのを丸めて作ったせん。
「なんか良さそうですよ!」
周りの声もさっきより聞こえてこない。
「歌うぜー」
カウの歌が始まったと思った瞬間、耳が温かく感じて緊張がゆるんだ。
*
「……び、おちび!」
「ふがっ!」
揺すられて目が覚めた。
システーナが起こしてくれたみたい。
腕ではまだお屑さまがぶらぶらしてる。
「寝ましたか!」
「すげー早かった! 全員寝てた! 今まで見た中で、いちばん早かったかもしんない!」
カウもびっくりしてる。
カウの後ろでぷらぷらしてるのは長お屑さま。頭の止まり木にから、ぺろーんと地面に垂れて眠ってる。
「うーん、自分が寝るところを外から観察できないのが残念ですねぇ。でも、耳が温かくなったので、アミョーの羽毛が補助の役割をしたのかもしれません」
残念と言ってるけど、マレンポーの目は相変わらずキラキラだ。
「他に何を試す?」
ニーノに言われて、腕組みした。
「別の部屋だったらどうですか?」
「シューマと私は同じ部屋にいなければならない。試してもいいが、意味はない」
「いや、試さなくていーよ。ずっとおれ歌ってんじゃん!」
無表情ニーノにカウが噛みつく。
ニーノがシューマに手術してる間、カウが歌ってシューマを眠らせるんだもんね。
だから、カウが別の部屋でうたったら、ニーノもシューマも聞こえません。
別の部屋から、シューマに聞かせる……。
「糸電話はどうですか?」
「それは何だ?」
「えっと、二つの筒の底を糸で結びますよ」
……前の世界だったら、紙コップとたこ糸と穴を開ける道具があれば、簡単に作れるのに。
マレンポーがにこにこ頷いた。
「さきほどお屑さまが言っていたのと同じ理屈ですね。筒の底に穴を開けて、糸を通し、もう一方の筒の底に開けた穴にその糸を通すことで、二つの筒がつながった状態になります。一つの筒の中でしゃべった声が、離れた場所にいるもう一つの筒に伝わる、そんな道具ですよ」
「なるほど。――か」
ニーノが何か言葉を言ったけど、聞き取れなかった。
……ニーノの前の世界の言葉かもしれない。
――ぽ! なんじゃ! なんじゃ!
腕輪からぶら下がってたお屑さまが、ぴこんっと顔を上げた。
「あ、起きた」
――起きたではないのじゃ! わしが眠ったら起こすのじゃ! わしの知恵が役に立つのじゃ!
「そんじゃー、長お屑さまも起こそうぜ」
システーナが長お屑さまに声をかける。
ニーノがこっちを見た。
「貴様が言った道具は長い距離、糸が他の物に触れないようにしなければならないはずだ」
「そうですよ。それにシューマは寝てますから、シューマの耳にずっとその筒を当てとかないとダメです」
「よく分かんないけど、面白そうな道具だね」
「エーヴェは別の世界にいた頃、その道具で遊びましたよ」
「でも、シューマさんの手術は急ぐでしょうから、のんびり道具を作るわけにもいかないですよねぇ」
「むー」
この世界では、強くて長い糸を手に入れるのも大変。筒も、お泥さまの座なら竹があったけど、木で筒を作るのは手間がかかる。
「大変なことです……」
「なんかさー、それって竜さまが遠くでも聞こえるのと同じじゃねーの?」
長お屑さまを起こしてたシステーナがこっちを見る。
「ん? おお! お屑さまからお屑さまにテレパシーしたらいいですよ! カウの歌をシューマに聞かせます」
――なんと! 痴れ者め! わしが寝れば、声が伝わらんのじゃ!
「おお……」
いちばん簡単で良い考えだと思ったけど、うまくいかない。
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