15.ニーノの用件
「カーウ! ちょっと来てください!」
システーナとルールについて話し合ってるうちに、マレンポーが杖を掲げて振った。
気づいたカウが遠くから走ってくる。
「なんだよ、マレンポー!」
「ニーノさんがカウに手伝ってほしいことがあるそうです」
ニーノがカウとマレンポーの側に歩み寄った。
もちろん、ついて行く。
「カウ、聞きたいことがある。歌は一人だけに聞かせることができるか?」
カウが首をかしげた。
「そりゃあ無理。歌は周りにいたらみんな聞くんじゃねー?」
――波をさえぎるものがあればいいのじゃ! 壁があれば聞こえぬのじゃ!
長お屑さまがみょんみょんして、助言をくれる。
「でも、壁があっても音は聞こえんだろ? たぶんちょっと寝ちゃうぞ」
「そうか……。シューマの治療をしたいが眠らせる薬を十分に持っていない。可能ならば、カウにシューマを眠らせてもらえないかと」
「なになに? カウの特性の話?」
籐のボールを掲げてペードもやって来た。
ボールを追いかけて、アミョーとテーマイもやってくる。
急に周りがにぎやかになった。
「テーマイ。エーヴェたちお話ししてますから、ボールで遊んでていいですよ」
ペードがテーマイにボールを渡すと、アミョーとテーマイで転がして遊びはじめる。
ボールにマレンポーが目をきらきらさせた。
「それは何ですか? 植物でできているようですね? 音が鳴ってるから、楽器でしょうか」
「ボールだぜ!」
「エーヴェが持って来てくれて、みんなで遊んでたんだ」
「……ルールが要りますよ!」
もう一度、主張する。
ポッポキがちらっとこっちを見たけど、すたすた離れて行った。
……きっと人間が集まって話すと、長いと知ってます。
「シューマに手術をしたい」
ニーノが話を戻す。
「しゅ、じゅ、つ?」
カウ、とっても言いにくそう。
「ニーノさんはシューマさんの足を切ったり、お腹を切って中身を出したりしたいそうなんですよ。でも、普通にそんなことをしたら痛くて大変でしょう? だから、カウにシューマさんだけ眠らせられないかという相談です」
「げー! なんてこと考えるんだよ!」
「足を切る?!」
カウとペードがひっくり返りそうに驚いて、さっとニーノから距離を取った。
ニーノはちょっとマレンポーを見たけど、頷く。
「その通りだ。シューマの足は壊死して使えない。手術に耐えられるか予想できないので、躊躇していたが、お屑さまがこのままでは死ぬと助言くださった」
――ぽ! しょんぼりが言うたのじゃ! シューマが死ぬるのじゃ!
――うむ! 何かせねばシューマが死ぬるのは事実なのじゃ! 体の中がすっかり冒されておるのじゃ!
――まったく! 邪気など取り込むからじゃ!
――そうじゃ! 口を閉じるのじゃ!
お屑さまたち、また話がそれてる。
「足切ったら、歩けねーんじゃねーの?」
「足の代わりになる道具を、ジュスタに作ってもらう」
「義足でしょうか? ジュスタさんは何でも作れますね!」
「そうです。ジュスタはすごいですよ」
「マレンポーも何でも知ってっけどな!」
自慢したら、カウに自慢で返された。
「おお、マレンポーは何でも知ってますか!」
――何を言うのじゃ! 何でも知っておるのはわしなのじゃ!
――誰よりも物を知っておるのはわしなのじゃ!
「そうですね! お屑さまの知識は素晴らしいですよ!」
――そうじゃ! 素晴らしいのじゃ!
当のマレンポーがほめてるから、順にほめ合ってるみたい。
「ジュスタは義足を作ったことはない。シューマが手術を終えてもまた歩こうとするならば、用意しようとは思っている」
「うーん。たぶんおれが歌うと、しゅ、じゅ、つ、してるニーノさんも寝ちゃうぜ」
「ニーノさんが耳せんをしたらどうですか?」
たしかに、耳せんが一番簡単かも。
お屑さまがぴこんぴこんした。
――音は波である! 波は体も伝わるのじゃ!
――シューマの体に触れれば、ニーノにも波は伝わるのじゃ!
「確かにお屑さまの言われるとおりです」
ニーノが頷く。
波を食べるだけあって、お屑さまは詳しい。
「じゃあ、耳せんがあっても、ニーノ寝ちゃいますか」
「……そうだな」
ニーノは首を傾けた。
「なぜ、カウは眠らない?」
「へ? どーいう意味?」
「歌を聞いている者が眠る。歌うとき、カウ自身も歌が聞こえている。だが、カウは眠っていない」
「カウには歌で眠らせる特性以外に、その歌で眠らない特性もあるのかもしれませんね」
「おお! 眠らない特性」
「……へー、考えたこともなかったぜー」
カウが感心してる。その脇を、ペードがつついた。
「感心してる場合じゃないよ。その特性がどこから来てるか分かれば、寝なくてすむんじゃないかって考えてるよ、あの顔」
「その通りですよ、ペード! わたしたちは遠くに離れてやり過ごしてましたけど、もっと簡単になんとかできるかもしれません」
「えー」
なぜかカウはいやそうな顔。
「どうしましたか、カウ」
「えー……いやー……べつにー?」
マレンポーがニコニコする。
「カウはわたしたちから逃げ出したいときにも歌うことがありましたから、それが使えなくなると困ると思っているんですよ」
「逃げたくなるようなこと、やめなー!」
「うるさいなー!」
二人の言い合いを耳に入れながら、頭を傾けて考えた。
「そうです! どうやったら眠らないか、試すといいですよ!」
「どういうことだ?」
ニーノが冷たい目でこっちを見る。
「耳せんをつけて、カウに歌ってもらいます。今度は、小さい声で歌ってもらいます。いつも眠くなるかどうか、確かめますよ」
「なるほど。だが、カウは大変だな」
ニーノの視線を追って、カウを見る。
「カウ、どうですか? いやですか?」
「ぜひやりましょう! とっても面白そうですよ、カウ!」
勢いよく答えたのはマレンポー。
カウは後ろで眉根を寄せてるけど、長ーい溜め息をついた。
「いーぜ。マレンポーが面白がりはじめたら、やらないほーがめんどくせーんだもん」
隣でペードがしきりに頷いてる。
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