14.花ばたけのボール遊び
籐製のボールを持ってきて、ボール遊び会を開く。
「わー! 音が鳴るんだ!」
意外にもペードが喜んだ。
嬉しそうに蹴り上げたけど、あさっての方向に飛んでいく。
「わ! できない!」
「何やってんだよー! ペード!」
「うるさいなー!」
――カウも蹴るのじゃ! ボール遊びなのじゃ!
ペードとカウとが言い争うのに、長お屑さまが指示を飛ばす。
二人が熱心に練習するのをまずは眺める。
テーマイは後肢の蹄の先で顎をかいてる。
……竜さまと同じ動きです。
――ペードとカウに任せるでないのじゃ! シス! 童! ボール遊びなのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこんした。
「二人はまだ、練習中ですよ」
――童とシスも練習するのじゃ!
「あー、ごめんごめん。どうやって遊ぶの?」
ペードがボールを両手で掲げた。
ちょっと照れくさそう。
……ボール遊びが好きなのかな?
「テーマイもやりますから、輪になってお互いに蹴りますよ」
「はいはーい。カウはあっち行って!」
カウはいーっと歯をむき出しながら、ぴょんぴょん向こうへ跳ねていく。
ペードがボールを蹴った。
ぽーんと飛んできたボールに、さっそくテーマイが追いつく。
テーマイが前肢で転がしたボールを蹴る。
「あ!」
花叢に当たってそれたボールをシステーナが高く蹴って、カウのほうへ飛ばした。
「えいっ! なー、これアミョーも呼ぼーぜ」
「暇なやつ、いっかなー?」
システーナがにやにやしてる。
――アミョーは皆忙しいのじゃ! しかし、皆が皆忙しいことはないのじゃ! ぼーっとするアミョーもおるのじゃ!
「ホントかよ」
――当然なのじゃ! わしも忙しいが、わしではないわしのすべてが忙しいことはないのじゃ!
……ぼーっとしてるお屑さまもいるのかな?
お屑さまのアドバイス通り、カウが呼ぶと、二、三羽のアミョーがやって来た。
「あ、ポッポキ!」
川に連れて行ってくれたポッポキ。思わず、呼びかける。
片目でこっちを確認した後、ポッポキが近づいてきた。
うーうっ、うーうっ
くぐもった声で鳴いてから、ポッポキはテーマイのほうを見て、すたすた離れる。
「……今の、あいさつですか?」
――うむ! あいさつなのじゃ! 童を覚えておるのじゃ!
「おお!」
にこにこした。
アミョーに顔見知りができるのは、とっても嬉しい。
人数が増えて分かったけど、地面が花畑なので、ボールを転がして遊ぶには向いてない。
テーマイが弾いたボールが、上手い具合にポッポキの背中に乗った。
驚いたポッポキが走り出し、ちょうど走った方向にいたカウが、背中のボールを杖で落とす。
そこから、アミョーたちの背中にボールを乗せ、それを落とす遊びに変わっていく。
「待ってください! エーヴェ、ボール落とせませんよ!」
カウやペードやシステーナはアミョーの背中に届くけど、私はぜんぜん手が届かない。
テーマイがボールを背中に乗せてると、かろうじて取れる。
でも、テーマイがボールを持ってることはほとんどない。
「ボールを渡しますよ! ずっとボールを持ってたら、追いかけっこですよ!」
口がへの字になって、地団駄を踏む。
背中にボールを乗せて意気揚々と走って行くポッポキには、全然追いつけない。
テーマイに任せて、地面に転がった。
――なんじゃ! 童は転がっておるのじゃ!
お屑さまの腕輪を着けたシステーナがのぞき込んでくる。
「おちびはまだアミョーに追いつけねーんだよ」
「追いつけるのはシスだけですよ!」
抗議のために起き上がった。
……全員が楽しく遊ぶためのルールが必要です!
ぷんぷんしてたけど、花畑の向こうの人影に気がついて口を開ける。
「あれー? ニーノが来てますよ」
「マレンポーも一緒だな」
丘の麓から、ニーノとマレンポーがやってくる。
ボールやアミョーを追いかけてるうちに、だいぶ遠くまで来てたみたい。
船や竜さまが一望できる。
「ニーノ! どうしましたか?」
ニーノに駆け寄ると、いつもの無表情で見下ろされる。
「カウに用があってきた」
システーナが背後に目をやる。
アミョーとカウたちはずいぶん遠くまで行ってしまった。
さっきのぷんぷんが、もう一度わいてきた。
「ルールが要りますよ!」
「るーる?」
「こんなふうに遊びますって決めますよ!」
「なんで? 遊びなのに決めんのか?」
システーナは目をぱちくりしてる。
「エーヴェ、ずっとボールに触れません! とても残念ですよ。楽しくないです」
「おちびが触れるよーになりゃーいーだろ」
「触れるようになるのはすぐじゃないですよ。今ですよ! みんなと今、楽しく遊びますよ!」
「おおー」
システーナはやっと分かったみたい。
――ふむ! ボールを増やすのじゃ! 杖を増やすのじゃ! 人は足りない部分を道具で補うのじゃ!
「おおー!」
お屑さまのもっともな助言に、思わず拍手した。
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