12.すべきことなし
ニーノはすでに起きてて、お影さまのところにいた。
露が降りた草の上で、お影さまはぐっすり眠ってる。その尾から、ニーノがそーっと布を外す。
「ニーノ、おはようございます。お影さま、しっぽ治りましたか?」
「ああ、治っている」
地馳さまに火線を当てられた、しっぽ。
見た目は真っ黒で、やっぱりよく分からない。
「なんで今取ってんだ?」
システーナの問いに、竜さまが目を細くした。
――影はその布が気に入っておる。起きていると、外されるのをいやがる。
「はい。飛んで逃げてしまわれました」
「あはは! おもしれー」
――ぽはっ! 布が飾りなのじゃ!
――痛いところに巻き、痛みが軽くなった。安心したのであろう。
ニーノは黙々と布を畳んでる。
……お影さま、起きたらショックじゃないかな?
「それで、貴様は何の用だ」
「あ、そうです! エーヴェ、星のまどろみどきから帰って来ましたよ」
竜さまが耳をぴるぴるっと振った。
――ほう? 自ら帰って来たか。
「そうです! エーヴェ、帰ってきました!」
……やっぱり、竜さまはすごさが分かりますよ!
――童の力ではないのじゃ! 古老が呼んで、戻したのじゃ! 古老の印があったのじゃ!
お屑さまから否定された。
――ふむ。古老の印か。エーヴェ、まどろみどきで星を見たか?
「お? 明るい星を見ましたよ」
星が近づいて、明るくなって目が覚めたことを話す。
「それから、きらきらした音がしました」
――うむ! 印なのじゃ!
――印である。八日先に古老がこの世界に戻る。
……八日!
「おおー! エーヴェ、古老の竜さまに会えますよ!」
「よかったなー、おちび」
システーナとぱちんと手を叩く。
――どこに着くか、古老から知らせがあるのじゃ! 童には聞こえぬが、竜には聞こえるのじゃ!
――うむ。知らせがあったらエーヴェに知らせよう。
「船を動かす必要はありますか?」
ニーノが竜さまに聞く。
――古老から指示がある。聞かねば分からぬ。
――会うための方法があるのじゃ! 指示を待つのじゃ!
「ほう」
何が起こるのかな?
わくわくする。
ニーノが軽く首をかしげた。
「では、今すべきことは」
――ない。待つのみ。
「分かりました」
ニーノが振り返った。
「では、朝食だ。ジュスタを起こして準備にかかれ」
「はい!」
すべきことなし!
ご飯です!
*
朝ごはんを食べた後は、ジュスタは腕輪作り、ニーノはシューマとナームの治療。
それで、システーナと一緒にアミョーのヒナを見に行くことにした。
「おはようございます! カウ! アミョーのヒナを見に来ました!」
地馳さまの座の三人は、簡素なテントの前でそれぞれ作業をしてる。
マレンポーたちの家はとても素朴で、支柱に布をかけただけ。
風もすーすー通る。
でも、こっちに慣れてると船のしっかりした壁や床や天井が、すごく息苦しいらしい。
「……習慣です!」
「何言ってんの?」
感心してると、さっそくペードからツッコミが入った。
「ヒナは昨日よりずっと可愛らしくなってると思いますよ。アミョーは常に移動する鳥ですからね。成長が速いんですよ」
「アミョーは走る鳥! です!」
「そうです、そうです!」
マレンポーはにこにこしてる。
「ナームは焼き卵食べたか?」
軽快にやって来たカウに聞かれて、思い出した。
「ナームは卵食べてません。ニーノはナームの環境を変えたほうがいいと言いましたよ! だからナームは卵を食べません」
「えー――!」
やっぱりカウはショックを受けてる。
「詳しいことはニーノが説明に来ますよ」
「いまはニーノもよく分かんねーみてー」
「そーかー、ナーム……うえーだいじょーぶかよぉ」
大げさに嘆いてるカウの向こうでペードが手をあげた。
「ヒナ見に行くんだよね? 連れてこーか?」
「はい! ペード、ありがとうございます!」
「あたしもあたしもー」
――わしも見るのじゃ!
ぴこんぴこんするお屑さま。
長お屑さまはみょんみょんする。
――カウも嘆いておる場合でないのじゃ! わしらも行くのじゃ!
「お屑さまはお屑さまが行くんだからいいじゃん!」
カウが事実だけど、まか不思議なことで抗議してる。
――よくないのじゃ! わしも見るのじゃ!
――そうじゃ! そうじゃ! 皆で見るのじゃ!
すべきことなし!
アミョーのヒナを見ます!
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