9.端っこの味
焼き卵のあと、岩や囲いに使った石にこびりついた卵を、カウが熱心にそぎ落としてる。
かき集めると、だいたいいりたまご一皿分。
「カウはそれが好きなんだよ」
ペードがいやそうな顔で見てる。
「細かいかけらまでかき集めて、最後にひとりで食べるんだ!」
「うるせーな! 好きなんだからいいじゃん!」
カウはぎゃーぎゃーわめきながら、集めたかけらをまとめて口に運ぶ。
目玉焼きのふちの薄い切れっ端は、目玉焼きとさして変わらなくても、とっても美味しいことを思い出した。
「……なんだよ、エーヴェも食べたいのか?」
「お? くれますか?」
カウは口をへの字にして考えてる。
「これはなー。半日焼き卵に張りついてたおれだから食べられる貴重な焼き卵なの!」
「おお」
「本当に、軽々しくあげちゃいけないんだぜ! でも、エーヴェは次いつ焼き卵できるか分かんないからな」
悩んだすえに、カウは八分の一山くらい、焼き卵くずをくれた。
ありがたく受け取って、口に放り込む。
ぷるぷる感にかりかり感が加わってるだけで、基本的に味は変わらないんだけど、ホタテの耳を食べてるみたいな特別感。
「おいしいですよ!」
「そうだろ! やっぱり卵は焼き卵だぜ!」
「卵はゆで卵だよ!」
カウとペードのケンカが始まる。
二人はきょうだいみたいな雰囲気。
そこで、長お屑さまが伸び上がった。
――エーヴェよ! そろそろ船に戻るのじゃ! アミョーの羽を一つ持って帰るのじゃ!
「おお、誰か呼んでますか?」
――羽はニーノの言づてじゃ! 焼き卵が冷めるのじゃ!
「お! 分かりましたよ!」
立ち上がってマレンポーを向く。
「アミョーの羽、ありますか?」
「何に使うんでしょう?」
「きっとナームがほしがってるんじゃない?」
「え、ちょっと待ってろ!」
カウが駆け出して、群れのアミョーに声をかけてる。
すぐに茶色と白のまだらの羽を持って戻ってきた。
五〇センチはありそうな立派な羽。
……引っこ抜いてきたのかな?
「ありがとうございます。じゃあ、エーヴェ、お土産を持って船に帰りますよ!」
「ナームによろしくな」
「ヲホロの話はまた今度ですね」
「おお……そうですよ」
ペードが手をひらひら振った。
「だいじょーぶ。五日もすれば、アミョーたちが実際にヒナたちに話して聞かせるから」
「おお!」
アミョーミュージカルの本番ですよ!
「でも、それだと、人間は何を言ってるか分からないのが残念ですよねぇ」
「なんと!」
そういえば、今回のはストストが人間用に話してくれた話。
「ストスト、すごいですね! エーヴェ、ニーノたちにもヲホロの話見せたいですから、また話してもらいますよ!」
「それがいいですね。ストストは喜んで話してくれますよ。アミョーはヲホロの話が大好きですからね!」
手を振ったところで、お骨さまが顔を上げた。
――エーヴェは帰るのか? ントゥはまだ狩りなのじゃ。
「じゃあ、お骨さまも一緒に船に行きますか? エーヴェ、りゅーさまのところに寄りますよ!」
お骨さまは体を起こして、船に向けて方向転換する。
――わしも帰るのじゃ。友と遊ぶのじゃ。
とっとっと駆け出してしまったから、慌てて追いかける。
船までのせてもらえるかと思ったけど、かけっこになった。
*
竜さまは、首を後ろに倒して角で背中をかいてた。
「りゅーさまー!」
――友、話は終わったか?
お骨さまにぶつかられて、竜さまは起き上がる。
――うむ。終わった。ニーノは船に戻ったのじゃ。
「シューマの話ですか?」
――難しい話なのじゃ。
お骨さまを首で押しのけて、竜さまは後肢で顎をがりがりかく。
――うむ。友の言う通り、難しい話である。シューマはずいぶん長い間、邪気でゆがんでおったゆえ、あちらこちらが病になっておる。ニーノは人として生きられるように治したい。
――ニーノはいつもがんばるのじゃ。
――うむ。いつも懸命である。
……ニーノ、ほめられてるのかな?
――ナームの病も邪気に関係するゆえ、ニーノに邪気について問われるが、邪気は邪気である。
――竜は竜じゃ。難しい話じゃ。
竜さまとお骨さまがお話ししてる。にこにこ眺める。
――ペロの作った火のことを聞かれたが、わしも初めて見たゆえ、よく分からぬ。
――ペロは水玉なのじゃ。火を作ったのか?
――うむ。火ではなく石である。邪気を焼く火を固めて石にしたのである。
――おお、火は火じゃ。石ではないのじゃ。難しい話なのじゃ。
――うむ。友の言う通りである。
のんびり話してた竜さまがこっちに金色の目を向けた。
――エーヴェ、ニーノが呼んでおる。急ぐがよい。
「お! そうでした! エーヴェ、行きます! りゅーさま、お骨さま」
ぴょんぴょん跳ねて手を振って、船に駆けもどった。
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