3.ふわふわゆで卵
わくわく卵の様子を見てたら、マレンポーがやって来た。
「焼き卵は時間がかかりますから、ペードが作ったゆで卵で食事にしましょう」
「もう、ゆで卵はできましたか?」
「そろそろですよ。お山さまの座の他の人にも声をかけましょうか」
ちょっと考える。
「うーん、ニーノとシスとジュスタはあんまり昼ご飯食べませんよ。でも、旅行中はお腹がすいたときは食べますから、どっちでもいいです」
さらにちょっと考える。
「アミョーの卵は初めてですから、やっぱり呼んでもいいです」
「じゃあ、焼き卵のほうを夕方持って行ってあげたらいいですね。ナームにもすこし持って行ってください」
……もしかして、焼き卵、夕方までかかるのかな?
――わしが聞いてやってもよいぞ! わしではないわしがニーノとシスの側におるのじゃ!
長お屑さまがみょんみょん威張ってる。
カウのところに長お屑さま、システーナのところにお屑さま、ニーノのところに細お屑さま、ペロのところに幅広お屑さまがいるから、今は携帯電話みたいにお話しできる状態。
……ペロはしゃべれないけど。
「じゃあ、エーヴェ、焼き卵持って帰りますってニーノとシスに伝えてください!」
――ぽはっ! もう知っておるのじゃ!
……あれ? これはお屑さまを通じて、こっちの行動が筒抜けなのかもしれない。
「おれ、ここで見張ってるから、行ってこいよ」
カウはしゃがんだまま、しっしっと手を振る。
「なんと。カウは食べませんか」
「カウの分はあとで運びますよ」
「この石がとられると大変なの」
「イシーは光る物が好きなんですよ。……あ!」
マレンポーが目をキラキラさせた。
「イシーと石って音が同じですよ! イシーは光る石が好き、面白いですね!」
「おお……、面白いですね」
韻を踏むとかだじゃれとかも、この世界では初めてです。
「もー! 面白くねーよ!」
「あっはっは! 行きましょう、エーヴェさん」
マレンポーと一緒にペードのところに戻る。
岩を探して、思ったより離れたところに来てた。
「お屑さまが、あの水晶は浜にあるって言ってました。地馳さまの座には海がありますか?」
「海に面しているのは確かですよ? ただ、竜さんは海の中は走りませんから、座の定義としてはどうなるんでしょうね?」
……残念。今、長お屑さまはカウと焼き卵を見てます。
「じゃ、マレンポーは海を見ましたか」
「ああ、エーヴェさんはまだ海を見たことがないんですね。水晶がある浜はかなり入り組んだ地形ですよ。場所によって、大きな川が流れこむ辺りは土の色の海なんですよね」
マレンポーは両手で宙に地図を描く。
「今いるのは竜さんの座の中では南で、高原なんですが、山脈をはさんで北側は乾燥した高原、砂漠と広がってます。山脈から北西側の端に水晶がある浜がありますね。みなさんはここよりさらに南から来たんですよね? となると、この世界はかなりの広さがありますねぇ。海を見たことがないということは一つの大陸ということですか」
マレンポーも想像をふくらませてるみたい。
ニーノもいろんなところに行ったはずだから、竜さまとニーノの話も聞きたい。
*
「――ん! いいにおいです!」
いいにおいの元を探すと、ペードが鍋の前にしゃがんでる。
「あれ? ゆで卵?」
想像してた料理と違う。
大きな卵が、どーんと鍋の中でゆでられてると思ってたけど、鍋の中は黄色いふわふわであふれてた。
「あ、そうです。アミョーは殻が固いです」
ゆでても殻がむけないんだ。
「は? どーしたの?」
ペードが怪訝な顔でこっちを見る。
「なんでもないです! エーヴェの思い込みでした」
「ふうん?」
鍋の中は卵の他にも何か入ってる。
手渡された器の印象は、卵がゆ。
緑の葉っぱで折られたさじが添えられてる。
「いただきます!」
「熱いから気をつけてくださいね」
マレンポーもにこにこしながら器を受け取ってる。
葉っぱのさじで器の中身をすくう。
ふわっとした卵と雑穀みたいな粒がちらほら見える。
卵がゆくらい警戒してふーふー息を吹きかけて口に入れた。
「おお!」
卵だけど、ニワトリの卵とは違う。ふわふわほろほろした食感がすごく珍しい。その中に、しっかりした雑穀の粒感が混ざってる。
たぶんアミョーのにおいがあるんだけど、草の葉で折った葉っぱのおかげでさわやかな風味が付いてて、黄身の強い味とバランスが良い。
「おいしいですよ、ゆで卵!」
初めてのゆで卵です!
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