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2.焼き卵

 ペードが卵を持って戻ってきた。

 行きはストストが乗せて行ってたけど、今は両脇に大きな卵を抱えて歩いてくる。


「大きい卵ですよ!」

「そう!」


 ペードが一つを目の前に差し出す。

 見たことないけど、ダチョウの卵ってこんな感じかな?

 小玉スイカくらい。アミョーがすごく大きいから、ちょっと小さく感じる。

 色は微かに緑がかってて、白い点が散ってる。


「ありがとうございます」


 マレンポーが卵に向かって手を合わせる。

 こちらの世界では初めて見たかもしれない。


「マレンポー、それはどういうポーズですか?」

「え? ありがとうのポーズですよ。あとはちょっとごめんなさいの意味もあるかもしれませんね」

「なんでだよ! 俺たちが食べてヒナになれなかったアミョーの分も()()()を見るんだぜ! あやまることねーよー」


 カウはぶーぶー言う。


 ――カウの言う通りなのじゃ! 食べることは謝ることではないのじゃ! これからも生きていく覚悟なのじゃ!

「おお! お屑さまかっこいいですよ」

 ――うむ! わしは美しく、かっこいいのじゃ!


 長お屑さまがみょんみょんしてる。

 前の世界にいたときはあんまり意識してなかったけど、食べ物って生きてる物か死んだ物だ。

 これからも生きると覚悟する食事は、ちょっとかっこいい。


「卵はどうやって食べますか?」


 お泥さまの座でワニの卵を食べたときはゆでたけど、()(はせ)さまの座ではどうなのかな?


「今日は天気が良いから、焼けるぜ!」

「焼きますか!」

「イシーがいたから危ないよ! 水の補給ができたし、ゆでてもいいね」

「ゆでますか!」

「えーおれ、焼き卵がいいー!」

「あたしはゆで卵!」


 カウとペードはよくケンカをする。

 どうでもよさそうなテーマのケンカだから、きっと仲良しです。


「卵はふたつあるんですから、一つは焼いて、一つはゆでればいいでしょう」

「やったー! 焼き卵!」

「ゆで卵!」


 二人は別々に料理の準備を始めた。


「エーヴェ、卵を料理するところ見たいです」

「じゃー、こっち来いよ」

 ――わしもアミョーの卵を焼くところは初めて見るのじゃ! むむ! なにやらむごい響きなのじゃ!


 長お屑さまはみょんみょんしてる。


「かえらない卵だからむごくねーよ」

 ――料理はたいていむごいのじゃ! じゃが、人はこれが好きなのじゃ! 味のことばかり気にするのじゃ!

「おいしいほうがいーじゃん」


 お屑さまに負けずに言い返すカウに招かれて、追いかける。

 でも、あちらこちら走りまわるカウを追うのは大変。


「カウー! 何を探してますか?」

「岩だよ! あ、これがいいぜ!」


 花畑の中に、平たくて黒っぽい岩を見つけて、表面に触れた。


「おー、いけるいける」

「お? 岩を使って料理しますか?」


 真似して触ってみると、岩は()(ざし)に暖められて熱いくらい。

 岩の上のゴミを吹き飛ばすと、カウはカバンから平たい小石をいくつも取り出して、岩の上に円を描くように並べる。

 意気揚々と卵を取り出したところで、はっとこっちを見た。


「エーヴェ、お前、卵割ったことないよな? 割る?」

「おお! やりますよ!」


 頭ぐらいある大きな卵を受け取って、両手で大きく振りかぶる。


「うわー! うわー! ちょっと待って!」

「お?」


 カウは大慌て。

 ……あれ? 違ったかな?


「そんなことしたら、卵が岩にぶち当たって、全部ぐしゃってなるじゃん!」

「エーヴェ、鳥の卵は何かの角にあてて割りますよ」

「アミョーの卵は固いから、力が要るんだよ! なんか小さい石とかで、ごちんって割るの」

「ほう!」


 カウがその辺りからめぼしい石を拾って、卵に当てる()()をする。


「穴が開いたらひっくり返して、逆にもごちんっ! するじゃん? そしたら、中身がだーって出るからさ」

「分かりました」


 カウから石を受け取って、卵を岩の上に置いて、打ちつける。


「お?」

「なー固いだろー? アミョーの卵は固てーの!」


 ニワトリの卵ならぺちゃんこになりそうな勢いだったけど、アミョーの卵は表面に傷が付いただけ。


「えい!」


 力一杯打ちつけると、石の先がアミョーの卵にめり込んだ。


「いーぜいーぜ! それ、ここでひっくり返して」


 さっき石で円を作ったところに持って行く。

 逆をまた、思いっきり石で殴った。


「おお!」


 卵の穴から、ゆっくり透明な中身が流れ出る。

 カウが言うほど勢いはなくて、ぬうっと姿を現す感じ。

 そのままカウが両手を添えて、卵を上下にがしがし振った。


「うわ!」

 ――飛び出たのじゃ!

「よーし!」


 乱暴に振ったから黄身がやぶれてる。

 でも、カウは大喜びで、木切れでぐるぐる中身を混ぜた。

 岩のくぼみの加減で卵はうまく石の輪の中にせき止められてる。

 そして、カバンから取り出した大きな透明の石を輪の上にのっけた。


「お? なんですか、それは?」

 ――おお! 水晶なのじゃ! 海辺で拾ったのじゃ!

「おお、さすがお屑さま! この透明な石が拾える浜があるんだぜー」

「すごいですよ! エーヴェ、行ってみたいです!」

「すげー、遠いよ。竜さんの走るとこのいちばん端っこ」


 しゃべりながらカウはアミョーの卵の殻に線を入れてきれいに割り、石の輪の外側に立てかけた。


「よし! これで待ってれば、焼き卵ができるぜ!」

「おお!」


 今までにない料理です!

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是非、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
卵焼きつくるのに丸々一話を使うとは、なんて贅沢な卵焼きだろう。単純な料理かと思いきや、岩と陽射しで焼き上げるの、一度はやってみたい料理法だけに楽しいですね。 アミョーの卵、ありがとう。 そういえばエー…
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