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1.アミョーの群れは今日もにぎやか

 ペードに貸してもらったもふマントをかぶって、じーっと息を殺す。

 隣ではカウが同じようにしゃがんで、息を殺してる。

 朝、食事のために巣を離れていた(ばん)が戻ってきて、巣にうずくまってるアミョーとくちばしをぶつけてあいさつした。


 みゃう、みゃうみゃう


 両親の声に反応したみたいにぴょこりと、()()()()()くちばしおばけが顔を出す。


 ぴぎゃー!


 まだ目も開いてないのに、ふらふら頭を揺らしたかと思うと、くちばしをいっぱいに開いた。

 激しい鳴き声に、さっきまで巣を離れていたアミョーがくちばし伝いに餌をあげる。


 ぴぎゃー!


 飲み込んだと思ったら、また叫ぶ。

 もう二、三回餌をあげたところで、巣にいたアミョーは立ち上がった。

 伴は交替で餌を探しに行く。

 帰ってきたアミョーが、はげちょびくちばしおばけの上に座った。


 ――おお!  ヒナなのじゃ! まだ目も開いておらぬのじゃ!


 むほっと、もふマントを突き抜けて、長お屑さまが顔を出した。


「お屑さま、しー! しーっ!」

「カウも、しーっ!」


 慌てて長お屑さまを元に戻そうとするカウを、たくさんのアミョーが一斉に見た。


 みゃうみゃう!


 交替で食事に出たばかりのアミョーが頭を高く上げ、大きく羽を広げる。


 けー――!


 頭からいっぱい赤い幾何学模様が飛んだ。


「邪魔したぜー!」

「わー! 怒られました!」

 ――ぽはっ! (わつぱ)どもが怒られておるのじゃ!


 カウと一緒に逃げ出す。

 パタパタしてる長お屑さまだけ、とっても愉快そう。


 昨日から、アミョーの卵がつぎつぎとかえった。

 そのせいで、ますますアミョーはピリピリしてる。

 夜の間に卵やヒナを狙いにくる生き物がいるらしい。

 アミョーはントゥを見ると、特に警戒するから、エネックみたいな動物なのかも。


「もう二、三日待てば、アミョーも落ち着くよ」


 逃げ帰ってきた様子を見て、ペードが呆れてる。


「ヒナはまだ羽も生えなくて可愛くないでしょう?」


 マレンポーは(よう)(しや)ない。

 でも確かに、骨と皮のはげちょびくちばしおばけはそんなに可愛くない。


「でも、エーヴェは初めて見ますからね。全部見たいですよ!」


 卵はアミョーが温めてるから全然見えなかったけど、ヒナの大きさからやっぱりなかなか大きいみたい。

 ヒナの頭の大きさがグレープフルーツくらいあったもんね。


「アミョーとヒナのこと、地馳さまは守ってくれませんか?」

「うーん。守ってくれるんだけどさ、竜さんは大きいから」

「気がつかないことのほうが多いですよね」

 ――わしは大きい。大きいぞ。アミョー狙う者は隠れる。上手に隠れるぞ。


 久しぶりに近くに来てる地馳さまが応えてくれる。

 地馳さまは大きいから、近くを走ってくれるだけでも、アミョーは安心だと思ったけど、そう簡単じゃないみたい。


「近くを走ると地面が揺れるだろー。卵にはあんまりよくないらしーぜー」

「ほほう」

「アミョーのことはアミョーでするってことですかね? でも、特性をもらってるアミョーもいますから」


 カタッカとクフプは子育て中だけど、ストストは群れの周りを前の場所生まれの若いアミョーと一緒に駆け回ってる。

 頭から赤っぽい色の幾何学模様を飛ばしながら警戒してて、頼もしい。


「マレンポーたちはアミョーを守りませんか?」

「もちろん、気がつけば相手を追い払ったりはしますけど」

「あたしたち、たったの四人だからさ。できることなんてたかが知れてるよ」

「囲いを作るわけにもいかねーし」


 最初にアミョーに乗ってるところを見たときは、遊牧民の印象だったけど、地馳さまの座の関係はだいぶん違う。


「――あ、イシーが飛んでる」

「カウ、教えてあげてください」


 カウが鋭く口笛を吹いた。

 ストストがばっと空を警戒し、群れのアミョーたちがみんな羽をふわふわ動かしはじめた。


 みゃうみゃう、みゃうみゃう


 空に横切った大きな鳥はじっくりアミョーの群れの上を飛んでたけど、ずっと続くみゃうみゃうに、諦めて飛んでいった。

 あれが、イシーだったみたい。


 ――おぉい、マレンポー、ペード! 卵いるか?


 ストストが遠くから走ってくる。


「あれ。残念だね。かえらない子がいたの?」

 ――そう。かえらない卵二つ。残念ぞ。

「ありがたくいただきますよ」

 ――いいぞ。こっち。乗せてやる。


 きょとんとしてる間に、ペードはストストに乗って、群れのほうに行ってしまった。


「マレンポー、今の、何ですか?」

「アミョーが産む卵の中には、運悪くかえらない卵があるんです」

「そういうのは、俺たちにくれるんだ。俺たちが食べる」

「なんと!」


 マレンポーはそばかすいっぱいの顔をにーっとゆるませる。


「隣人のよしみですよ。かえらない卵は結局何かの餌になりますからね、馴染みの私たちに分けてくれるんです」

「親はいやじゃないですか?」

「さすがに親の目の前では食べませんよ? ストストがああ言うからには、親が了承してるんです。アミョーによっては、諦めきれずに頑張って抱き続ける親もいます。そういう卵を無理にもらったりはしません」

「アミョーによって違います」


 ……うーん。そのままにしておいても何かに食べられちゃうなら、他の生き物に分けてあげようと思うかな?

 人間は死産でもその死体を他の生き物にあげるなんて、なかなかできそうにない。


「たぶん、アミョーたちはマレンポーたちを信用してますよ!」

「ああ、それは嬉しいですね」


 遊牧民と違うと思ったけど、似てるところもあるのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
はげちょびくちばしおばけ、長い。けど想像の助けになる。エーヴェは見たまんまを名付けるのでわかりやすい。 アミョーとマレンポーたちは種族を超えた共同体で生活しているみたいですね。 確かに遊牧民みたいな暮…
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