19.邪気とゆがみ
ニーノが一歩前に進み出た。
「お屑さま、その人間は預かります」
「うぎゃ! ニーノ怒ってますよ!」
「落ち着けよーニーノー」
無表情なのに、体の周りに怒りのオーラがほとばしってる。
「だまれ。その人間は病とケガを抱えている。手当が必要だ」
――そうじゃ! ニーノよ、頼んだのじゃ!
ばちばち怒りをまき散らしながら、ニーノは指示を飛ばし、シューマは即席の担架に固定されて連れて行かれた。
シューマはまだ泣いてる。
お屑さまと離そうとするとうなるから、お屑さまの腕輪を一つ渡した。
「うー……ま」
竜さまって言ってるんだろうけど、うまく舌が動かないみたい。
「夜が更けている。貴様もさっさと休め」
厳然と言い置いて、ニーノは船に戻る。ナームも容態を見ると言われて、担架の運び手二人と一緒に船に戻っていった。
星空の下に静寂がやってくる。
「ほわー大変なことですよ!」
こわいものがお屑さまの付き人だったなんて。
「うん、いろんなことが起こったね」
ペードがほーっと息を吐く。
「あれ、お屑さまの付き人なのかよ」
長お屑さまをもう一度頭に着けながら、カウが聞いた。
――そうなのじゃ! シューマなのじゃ! 生きておるとは思わなかったのじゃ!
――また会えて、よかったのじゃ。
お骨さまがひょいひょいやって来る。様子をじっと見守ってた竜さまが頷いた。
――うむ、友の言う通りなのじゃ。再会は良きことである。
――良きことなのじゃ! 大変なことなのじゃ!
お屑さまも嬉しそう。答えがふわふわしてる。
――シューマとはずいぶん昔に別れたのじゃ! わしが九九九に別れる前なのじゃ!
「なんと! とっても昔ですよ」
お屑さまは世界がゆがんでることに気がついて、ゆがみを確かめるために九九九に自分を裂いて世界中に飛んだ。
お屑さまになる前のお屑さまは、九つの首があるお九頭さまだったけど、今はぺらぺらのお屑さまになってる。
――シューマはとても小さかったのじゃ! 最初に会った童くらいだったのじゃ! 九九九に別れた後も、つるにつかまってしばらくともにおったが、つるが切れてしまったのじゃ!
「おお……、悲しいです」
――わしの座は周りが高い山なのじゃ! 頂上にはいつも雪が積む高い山なのじゃ! まさか山を越えて、ここまで来るとは思わなかったのじゃ!
「お屑さまの座はここから遠いですか?」
――遠いのじゃ! 地続きではあるがとても遠いのじゃ! とんでもなく歩いてきたのじゃ! 大変なことなのじゃ!
――たくさん歩いたに違いないのじゃ!
――たくさんに会いたかったのじゃ。ぎゅっとつまっておったのじゃ。
お骨さまがぱかっと口を開けた。
――邪気は執着を好む。屑への強い執着が、邪気を呼び寄せたのであろう。
「そもそも、邪気とは何ですか?」
マレンポーの質問に、竜さまたちが沈黙した。
――邪気は邪気なのじゃ! そこら中にあるのじゃ!
――うむ。何かの中に入り込むとそのものをゆがませるのじゃ。ゆえに、邪気と呼ぶ。
ぶー!
お影さまが竜さまに何か言ってる。
――うむ。邪気はものをゆがめるが、かの者はゆがめられたゆえ、生き延びられた。邪気が入り込まねば、とうの昔に死んでおる。
――うむ! 邪気を焼く火があってよかったのじゃ! 地馳の座に来たのは運が良かったのじゃ!
――地馳はよくやったのじゃ。
お骨さまはばっと羽を開く。
ぼ、……ぼっ!
お影さまもばっと羽を開く。
べ!
お影さまがこっちを向いて羽をバタバタした。
「よかったですよ!」
ぴょんぴょん跳ねると、お影さまも跳び上がって、どしんと降りる。
――影よ。エーヴェはもう寝る。夜も更けた。話の続きはまた明日じゃ。
ぼ!
驚いたお影さまが不満のマナーモードになって、地面から振動が伝わってきた。
地馳さまの座のみんなは笑う。
「じゃ、また明日ねー」
「おやすみなさい!」
「おやすみー、エーヴェ」
「また明日」
あいさつをして別れた。
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