18.正体
地馳さまの上をくうるりと一周飛んでから、竜さまがこちらへ戻ってくる。
――地馳、よくやったのじゃ!
お屑さまが次々に地馳さまを誉めたたえた。
――地馳が、たくさんがたくさんでびっくりしておるのじゃ。
お骨さまがかたかた顎の骨を鳴らしてる。
竜さま同士ならこの距離でも会話できるみたい。
ぶー!
お影さまは竜さまを迎えに飛び出していった。
まだ金色に光っている竜さまの周りを、珍しそうに飛び回る。
――うむ。そうなのじゃ。この火の吐き方を忘れたのである。
竜さまの声が遠く聞こえた。
……お影さまに応えてるのかな。
「じゃあ、今ので邪気が焼けましたか?」
――今も焼けておるのじゃ! 明るいのじゃ!
――地馳の火は良い火なのじゃ! 長く燃えておるのじゃ!
話してるうちに、竜さまが近くに降り立った。
せっかく甲板に登ったけど、また外に駆け出す。
*
ずん、とお影さまも地面に降り立った。
ぶー……
竜さまの光はもうほとんど残ってない。
――邪気が焼けたゆえ、見えるようになったのである。
こわいものを地面にぽとりと落として、竜さまが首を持ち上げた。
こわいものも、もう全然光ってない。
「おお! 人ですよ!」
縄は元のとおりかかったままだけど、さっきまでもちゃもちゃしたぼろくずにしか見えなかったのが、ぼさぼさに伸びた髪や手足や顔の形が分かるようになってる。
「……お、お」
今は、竜さまや人に取り巻かれて、おびえてるみたい。
「……ニーノ、この人、ケガしてますか」
肌は赤黒く日に焼けてる。
体中汚れてるだけでなく、妙に固くなったり、曲がったりしている部位があって、怖じ気づいてしまう。
ぴこんっとお屑さまが伸び上がった。
――うむ! やはりヒトであるのじゃ! こわいものはヒトなのじゃ!
お屑さまの声を聞いた途端、元こわいものの目が輝いた。
「お、お――ぅう、うー、ま」
さっきまでぴこんぴこんみょんみょんしてたお屑さまたちが、ぴたりと止まる。
「あれ、どーしたんだ? お屑さま?」
システーナがのんびり聞いた。
――なんと!
――なんということじゃ!
――大変なことなのじゃ!
――信じられないことなのじゃ!
「うわっ! 何事だよ!」
お屑さまたちが一斉に叫び始める。
大興奮で、高速ぴこんぴこんして、縄跳びの縄の残像みたい。
――信じられないのじゃ!
――シューマなのじゃ!
――なぜここにおるのじゃ!
――わしの付き人なのじゃ!
――生きておったのじゃ!
――座にはいなかったのじゃ!
――邪気で見えなかったのじゃ!
――大変なことなのじゃ!
「なんと」
一斉に話す中から聞こえる言葉を拾い集めると、元こわいものはお屑さまの付き人です。
ナームが大興奮お屑さまたちを元こわいものの側に連れて行く。
――おおおお!
――シューマよ!
ジュスタもお屑さまたちを運んであげた。
――見違えたのじゃ!
――生きておったのじゃ!
「うー――、ま」
喉から絞り出したうめきの後、元こわいものは泣きはじめた。
――なんと! 泣くことはないのじゃ!
――よかったのじゃ! シューマよ、また会えたのじゃ!
――あれほど小さなヒナがよく生き延びたのじゃ!
――よかったのじゃー、よかったのじゃー。
ジュスタが縄をとくと、元こわいもの――シューマはお屑さまたちを抱きしめる。
「うー、さま」
――よく生きたのじゃ!
シューマはまだぼろぼろ涙をこぼしてる。
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