17.一堂に会す
急いで体を起こす。
竜さまがうっかりその場で羽ばたいたせいで、地馳さまの座の三人も尻餅をついてる。
「お山さまの風は強いですねー」
カウとペードが、地面でもたもたしてるマレンポーを引っ張り起こしてあげてる。
「地馳さまの火、エーヴェたちも見れますか? 見たいですよ!」
……邪気を焼く火と普通の火は、何か違うのかな?
「硫黄食べた竜さまみたいに青い火かもしれません!」
「地馳さまって今ちょっと離れてんだろ?」
――この船の甲板に乗れば、少しは遠くまで見られるのではないか?
――登ってみたいのじゃ!
お屑さまたちが期待に満ちた助言をくれる。
「じゃあ、登ってみましょうか」
「帆柱の上も登れます!」
宣言したところで、向こうからやってくるふわふわ頭が目に入った。
「ナーム!」
「お屑さま、起きた?」
ナームは左に腕輪、右に止まり木でやってきた。
――わしを眠らせるとは、カウは不届きなのじゃ!
――おお! 見よ! わしではないわしが、こわいものから解き放たれておるのじゃ!
長お屑さまとお屑さまがみょんみょん、ぴこんぴこんする。
――おお! わしではないわしなのじゃ! このような数が一所におるなぞ、久方ぶりなのじゃ!
――この腕輪とやらはなかなか安定するのじゃ。よき作り物じゃ。
幅太お屑さまと細お屑さまも呼応してみょんみょん、ぴこんぴこんする。
そういえば、ナームの腕にも腕輪があるから、細お屑さまが止まってるのはジュスタの新作腕輪。
……ジュスタ、仕事が速いです!
――わしもこわいもののことは見ておったのじゃ! 大変に恐ろしげであったのじゃ!
――わしではないわしの見ているものも見えるわしらでなければ、あのような暗闇は大変な苦痛なのじゃ! まったく! こわいものは恐ろしいのじゃ!
――招くならまだしも、捕まえるなど力におごっておるのじゃ! まったくのこわいものなのじゃ!
――しかし、しょんぼりはあいかわらずのしょんぼりなのじゃ! しっかりするのじゃ!
――なんと。わしはわしの中でも思慮深いのじゃ。
――誰よりも物を知るわしが思慮深いのは当然なのじゃ!
――誰よりも思慮深いのじゃ!
――む! 童! 何をしておるのじゃ! 口が開いておるのじゃ!
――邪気が入るのじゃー!
慌てて、む、と口をつぐむ。
二人でもすごかったのに、四人で上下動しながら、噴水みたいに言葉を飛ばしてる。
見てるだけで、ぽかん、だ。
「お屑さまがたが解き放たれて、何よりです」
ニーノが重々しく頷いた。
「あー……とにかく、甲板に行こーぜー。頭ぐちゃぐちゃになんよー」
――そうじゃ! 甲板じゃ!
――火を見るのじゃ!
移動の間中、お屑さまたちのおしゃべりは止まらない。
圧倒的おしゃべりに、気がつくと人間は誰もしゃべってなかった。
――お。皆、また出てきたのじゃ。
甲板に出ると、船の外にいたお骨さまが声をかけてくれた。
ぼ!
お影さまも首をこちらに向けて、あいさつしてくれる。
「お骨さま、地馳さま、見えますか?」
――地馳はあっちなのじゃ。友もあっちなのじゃ。
お骨さまが顔を向けたほうを見る。
「あ、りゅーさまですよ!」
遠い丘の暗い線の上に、ほのかな白銀の光が流れてる。
「お山さまは光ってるから分かりやすくていいね」
「でも、地馳さまはとっても大きいですよ!」
竜さまの光に気がつくと、丘だと思ったのが地馳さまの背中だと分かる。
――地馳! 火を吐くのじゃ!
――邪気を焼くのじゃ! こわいものがこわいものでなくなるのじゃ!
お屑さまたちがはやし立てる。
でも、こんなに遠いから、火が見えるかちょっと心配。
「……ん?」
丸い光が見える。
月に似てるけど、空にないから月じゃない。
「竜さんが何か光るものを吐きましたね」
「舌に乗っけたよ」
地馳さまの座の二人にはよく見えてる。
「あ、投げた!」
カウが叫んだとき、月みたいな光の球体が放物線を描いて、地面に落ちた。
ぼよんっと跳ねて、竜さまにぶつかる。
「おわ! りゅーさま!」
光の球が当たった竜さまは、全身が金色にほのかに光る。
ここからは見えないけど、たぶんこわいものも光ってる。
「きれいだね」
――きれいなのじゃ。
ぼっぼっ!
お影さまが羽をバタバタして、お屑さまが全員パタパタした。
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