15.お屑さま千差
「とにかく一度、こわいものを見てみましょう」
マレンポーの提案で、腰を上げる。
お屑さまと長お屑さまがまだ眠ってるから、ナームがその場に残った。
お影さまはニーノとシステーナが起きて満足したみたい。のしのし歩き回って、草や花のにおいをかいでる。
お骨さまがひょいひょい寄って行ったから、二人で遊ぶのかも。
「――あれです。もう気がついたかな?」
船は白くて、夜でもほの明るい。
四方を固定する柱の足下に、黒い塊がある。
――こわいものなのじゃ!
細いお屑さまが細かくぴこんぴこんする。
こわいものは、やっぱりぼろくず。
砂と枯れ草の上で転げ回ったバイソンみたい。
動かないから、まだ眠ってるのかな。
そーっと近づくと、腕と足があるのが見えた。
……もしかして?
「これ、人じゃねーの?」
システーナがずかずか側に行く。
「システーナ、あまり近づくな」
「ほーい」
ニーノが厳しい声で言ったので、システーナはさっさと離れた。
「どうかしましたか、ニーノさん?」
マレンポーが聞くのも分かる。
……ニーノ、すごくいやな顔してます。
眉ひそめて、こわいものをにらんでる。
「は! ニーノ! こわいものを閉じ込める物はないですよ!」
「だまれ」
また怒りがわいてきたのかなと思ったけど、違うみたい。
「これは病だ。――におう」
「なんと」
……こわいものは病気です!
「えー? でも、おれに飛びかかって来たぜ! これ見てよ! 引っかかれたっしー!」
カウが自分の顔の傷跡を不満いっぱいで指さした。
ニーノの表情は変わらない。
「体に腫瘍ができている。おそらく相当長く座の外にいた」
「へえ。じゃあ、この人はどこか遠くからやって来たわけですか? 竜さんの座は広いですからね」
マレンポーが目を丸くする。
ニーノはまだ、こわいものから目を離さない。
「……あまりよく見えない」
呟きにお屑さまが反応した。
――ぽ! そうじゃ! 邪気なのじゃ! こわいものはゆがんでおるのじゃ!
――山よ! どこにおる? ちょっと来るのじゃ。
お屑さまが二人で呼びかける。
でも、夜だったら明るく見えるたてがみが、近くには見えなかった。
――むむ! 地馳のところなのじゃ! 山は遊んでおるのじゃ!
――山と地馳も久しぶりなのじゃ。久闊を叙すのは良いことなのじゃ。呼べば、きっとそのうちに戻るのじゃ。
幅太お屑さまは左右に大きく揺れてるけど、細いお屑さまはのんびり答える。
……お屑さまが、のんびり?
「細いお屑さまは、お屑さまじゃないみたいです」
無意識の呟きに、細お屑さまはぴこんっと伸びた。
――なんと。わしがわしでないと申すか。そんなことはないのじゃ。わしもお屑さまなのじゃ。九九九の一なのじゃ。
――わしではないわしのなかでも、お主はいちばん勢いがないのじゃ! しっかりするのじゃ!
――わしはしっかりしておるのじゃ。しょんぼりすることを言うでないのじゃ。
細いお屑さまはちょっとしおれてる。
「細いお屑さまもお屑さまですよ! ちょっと違うだけで、お屑さまです」
――ぽ! 童はよいことを言うのじゃ。わしはお屑さまなのじゃ。
細いお屑さまがちょっとぴこんぴこんした。
……お屑さまも、全員自信満々ってわけじゃないみたい。
お屑さまたちとしゃべってる間に、ニーノはこわいものの側に膝をついて、細かく見てた。
「おめーは側に行ってもいーのかよー、ニーノー」
「襲いかかってこない? 大丈夫?」
ペードとシステーナが背後にしゃがんで、はやし立てる。
ジュスタは黙って様子を見てる。その影に隠れてるペロと、ペロを眺めてるカウ。
「ペロもこわいものがこわいですか?」
聞いてみたけどペロは無反応。
頭の上にも何も飛んでない。
平ぺったくもなってないから、ニーノほど怖くはないのかな。
「お屑さま、ゆがんでいるとはどういうことですか」
ニーノが立ち上がって、お屑さまを振り返った。
――おお、そうじゃ! ゆがんでおるのじゃ!
――邪気と毒とでありようが変わるのじゃ。それは邪気が強すぎて、元の姿がよく分からないのじゃ。
――山の火で吹き飛ばすのじゃ!
――竜ならば邪気を吹き飛ばせるのじゃ。
さっきまで言い合いしてたけど、お屑さまたちの呼吸はぴったり。
「じゃあ、りゅーさまを待ちますか?」
ニーノは黙って頷いた。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。