14.ジュスタの言うとおり
花畑のあちこちで、アミョーが首をあげる。
「カウの歌の影響は、どのくらい近くでどのくらい長く聞いたかで変わるみたいなんですよ。群れのアミョーもちょっと眠っちゃって、カウは怒られてました」
「しょーがないだろ! おれも腹が立ってたんだもん」
――カウのおかげで、助かったのじゃ!
――わしらもちょっと眠っておったのじゃ。ぽはっ!
ジュスタの腕で、お屑さまたちは陽気に笑う。
お屑さまが四人。二人はまだ眠ってるけど。
いったい何が起こってるんだろう。
「それで、あの人は大丈夫ですか?」
「エーヴェも起きたし、そろそろみんな起き始めるぜ」
マレンポーとカウが心配そうな顔でジュスタを見る。
ぶー!
お影さまが勢いよく叫んでる。
「縄でぐるぐる巻きにしました」
「は! あの人はぼろくずのことですか?」
眠る前に起こったことを思い出した。
縄でぐるぐる巻きにされるなんて、お屑さまを連れ去ろうとしたぼろくず以外にいない。
「ぼろく……? お屑さまによるとこわいものらしいよ」
細いお屑さまが縮む。
――そうじゃ! こわいものなのじゃー!
――あのものはどうなったのじゃ?
「まだ眠ってます」
べ! ぼ!
お影さまに呼ばれた。
見ると、ニーノが体を起こしてる。
「ニーノ! おはようございます!」
「――これは」
「ぶは!」
首をめぐらせたニーノの隣で、システーナが勢いよく体を起こす。
「うわ!? 長お屑さま?」
ぶんぶん首を振って、周りの様子に気がついたみたい。
「……あれー?」
「シスも起きました!」
ぼっ! ぼっ!
お影さまが羽をパタパタさせたので、みんなの髪が浮き上がり、火の粉が舞いあがった。
くちばしの先に火の粉が通り過ぎたとき、ストストもぱっと顔を上げる。
――みゃ? おれ起きたぞ? おれ、寝てたぞ。カウのせい、知ってる。おれ寝てたぞ!
「わー! 怒んなって!」
起き上がったストストが、猛然とカウに向かっていく。
くちばしを避けて、カウは慌てて逃げ出した。
*
「それではお屑さまがたは、こわいものにとらわれていたのですか」
火の周りに座ってカウの特性の説明を聞き終えると、ニーノがお屑さまたちに目を向けた。
夜の冷たい空気の中、火の温かさにゆったりしてた気分が一気に固くなる。
――そうなのじゃ! 大変なことなのじゃ!
「こわいものが持ってた長い筒にお屑さまが二人も閉じ込められていたんです」
ジュスタが刀の鞘みたいな長い筒を示した。
一見、豆のさやとも似てるけど、見たことがない道具。
――筒の口がコケでぎゅうぎゅうに閉じられておったのじゃ。頭を当てても、ふわりとするばかりで動かなかったのじゃー。
細いお屑さまがしょんぼりする。
……お屑さまがしょんぼりするなんて、大変なことです!
「こわいものの目的は、お屑さまを捕まえることなんですか?」
マレンポーが首をかしげた。
――分からんのじゃ! わしがゆったりパタパタとしておったら、大変な勢いで向かってきて、気がついたら筒の中におったのじゃ!
――わしはかれこれ四百余日は筒の中におったのじゃ。声をかけても、こわいものは話が分からぬのじゃー。
「なんと! ひどいですよ!」
お屑さまは招かれたら千日でも楽しくおしゃべりしてくれそうなのに、襲いかかってつかまえるなんて、横暴です。
「で、そのこわいものはどーなってんの?」
「縄でぐるぐるですよ!」
「それを、船の支柱に結びつけてます」
ジュスタにうんうん頷く。
……これは確かに、船に結びつけないといけません。
「それでは、今すぐそのこわいものを筒に閉じ込めましょう。四十四日でよろしいですか?」
「ええー?!」
ペードと一緒に驚きの声を上げた。
――ニーノは何を言っておるのじゃ?
細いお屑さまはぴこんぴこんする。
「お屑さまを閉じ込めたなら、自らも閉じ込められるべきです」
ニーノはいつもの無表情。でも絶対、冗談は言わない。
……ニーノ、怒ってますよ!
ジュスタが眉を下げて頭をかく。
「ニーノさん、こわいものが入るような筒はありません」
「では、樽にする」
「いやです。こわいものを閉じ込められる大きさの樽は水樽しかありません。あとで水が入れられなくなります」
「そーだそーだ」
システーナが合いの手を入れる。
「それに何かを閉じ込めるなんて、樽は不本意ですよ。俺は役に立つ道具を作るので、そういう物は作りません」
「おおー」
「ジュスタの言うとおりですよ!」
システーナと一緒にジュスタに拍手した。
「確かに」
しばらく考えてから、ニーノも同意した。
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