冬
あぁ、僕はなんて幸せなんだろう。
世界で一番素敵な彼女がいて毎日が幸せだ——。
彼女は僕がどんな辛いときも支えてくれる。
本当に僕は世界一の幸せ者だろう。
あの日、僕は生きる希望を失ってしまった。
最愛の恋人を失って絶望に打ちひしがれていた。
そんなとき、彼女は僕と一緒にあの人の墓石の前でたくさん話をしてくれて、話を聞かせてくれた。
彼女もつらいはずなのに、僕を気遣ってくれているのがとても伝わってきた。
本当に優しい人だと改めて思った。
そして、彼女が僕に想いを伝えてくれたときのことを今でもよく覚えている。
最初は抵抗もあったが、彼女の真剣な想いも伝わってきて現実と向かい合おうと思った。
あの頃の僕は本当に心が壊れていて、大変失礼なことを言ってしまったと思う。
あの人のことはいつまでも忘れられないと——。
それがどれほど彼女を傷つけてしまうかということを考えられずに、僕は——。
でも、それでいいんだと彼女との時間を重ねるごとに思えてきた。
あの人とのことを忘れてしまう必要なんてなかったんだ。
あの人との思い出も、約束も、大切にしていいんだ。
ただ、今の彼女もあの頃と同じように大切にすればいい。
すると、今まで見えていなかった彼女の本当の姿が見えてきた。
双子の妹ということだけあって、あの人に姿や仕草が重なるときがある。
過去の記憶が蘇り、ふと切なくなることだっていまだにある。
だけど、笑ったときの表情や興奮したときの話し方は結構違うものだ。
僕は今の彼女をとても愛しく思っている。
あの人の代わりなどではなく、一人の女性として確かに愛しているのだ。
しかし、この僕の想いがどれほど彼女に伝わっているのかはわからない。
これまで僕は彼女にとてもつらい思いをさせてきてしまった。
彼女といるのに彼女ではない女性の幻想ばかり追いかけていた。
でも、もう大丈夫。
あの人はあの人として、僕の心に確かに刻み込まれている。
そして、彼女は彼女として僕の側にいてくれる。
本当に幸せな毎日を送れているのだった。
今日もデート終わりに彼女を家まで送って帰る。
寒く冷え込む夜に雪が舞い散る。
僕たちは寒いねと言い合いながら腕を組んで歩道橋の階段を登った。
それから足並みを揃えてゆっくりと歩道橋の階段を降りていた。
「今日もありがとう。もう、ここでいいよ」
彼女は笑顔でそう告げると、すっと僕の隣からいなくなってしまう。
一瞬見えた彼女の顔は霜焼けのせいか赤くなっていたようだった。
そのとき、僕の中で何か嫌な予感がした。
まるで、また大切な人が僕の目の前から消えてしまうような感覚に襲われたのだった。
「待って!!」
僕は思わず彼女を呼び止めた。
そして、気持ちを伝える。
「見えてるよ——。彼女じゃない。今は君だけが見えてるよ」
すると、彼女の足元がピタッと止まり僕の方を振り返る。
そして、彼女の瞳からはすーっと一筋の雫が零れ落ちるのだった。
「君が笑ったときの屈託のない笑顔が好きだ! 君が困った人に手を差し伸べる思いやりが好きだ!」
「君が彼女に似ているからじゃない。僕がつらいときに側にいてくれた君が好きなんだ」
僕は雪の舞う静まり返った夜空の下で彼女の名前を呼んだ。
「———!!」
恥ずかしさなどなかった。
今、ここで伝えないとだと思った。
「愛してるよ」
彼女は手で顔を覆い、僕の胸に飛び込んできた。
そして、声にならない声をあげていた。
そんな彼女の頭を優しく撫でながら僕は優しく抱きしめるのだった——。
この日から、彼女は昔以上に笑うようになった。
もう自分を押し殺して姉の真似をする必要はなくなったからだろう。
僕たちはより一層関係を深めていくのであった——。
僕は様々な幸せを日々実感している。
あぁ、僕はなんて幸せなんだろう。
世界で一番素敵な彼女がいて毎日が幸せだ——。