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春夏秋冬  作者: 竹取GG
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 あぁ、私はなんて不幸なんだろう。


 世界で一番素敵な彼氏がいるのに毎日が不幸だ——。




 彼はどんなときも私が喜ぶことをしてくれる。


 でも、その視界にきっと私は映ってはいない。


 それが嫌というほどわかるからこそ余計につらくなる。


 どれだけ彼の優しさが私に向いたらと願ってきただろう——。


 どれだけ彼の思い人になれたらと願ってきただろう——。


 どれだけあの人がいる場所が私だったらと願ってきただろう——。


 しかし、それが現実になったのに今の私は幸せを感じられずにいる。


 胸が締め付けられるほどに苦しい。


 こんな思いをするくらいならば、彼とは出会わなければよかったとさえ思ってしまうのだった——。




 学生の頃、初めて出会ったときからずっと好きだった。


 仲良しだった双子の姉が私に、当時付き合っていた彼氏を紹介してきた。


 その彼氏こそが彼だった。


  「こんにちは」


 笑顔でそう微笑みかける彼の姿に私は胸を打たれたのだ。


 姉のことは大切だ、大好きだ。


 幸せになって欲しいと思っていた。


 だけれども、それでも彼がお姉ちゃんの彼氏である以上、片想いしている私はつらかった。


 誰が見ても二人は理想のカップルだったと思う。


 美男美女で価値観も趣味もお互いに合って、些細なことで笑い合っていた。


 私なんかが彼と釣り合うわけがないとわかっているからこそ、ある意味で諦めもついた。


 将来、おしどり夫婦として二人は幸せになるのだろうと私は思っていた。


 そして、いつか私は彼のことを諦めて別の人と結ばれるのだと。


 しかし、二人が幸せの絶頂にいる中で悲劇は起こった。




 姉の突然の事故死——。


 私も彼もお別れを言うことさえできなかった。


 病院で再会した姉は白い布で覆われていて、その姿を再び拝むことさえ私たちには叶わなかった。


  「どうして……。どうしてだよ……」


 葬儀の後も、私がお墓参りに行くと必ずといっていいほど、彼は姉の墓石の前でいつも泣き崩れていた。


 私たち家族と同じくらいに、彼は姉の死に打ちひしがれていたのだった。


 そして、私は彼と一緒に姉の墓石を前にして語りかけた。


 そこにいるはずもないのに、急にいなくなってしまった大好きな姉に私たちは伝えられなかった思いをひたすら語るのだった——。




 それからどれほどの月日が経っただろう。


 私は少しずつ元の生活を取り戻していった。


 前に向いて、歩き出していたのだった。


 私は姉のお墓参りを変わらずに続けていた。


 そして、いつものように彼と出会うのだった——。


  「やぁ……」


 覇気のない彼の挨拶。


 彼は私と違って、いまだに姉のことを乗り越えられないでいた。


 日に日に痩せ細り、顔色は悪くなり、服装や髪型も乱れていった。


 話を聞けば、仕事も休職中だという。


 私は姉と同じように大切な彼が苦しむ姿を見ていられなかった。


 きっと、姉も早く彼には立ち直って欲しいと願っているはずだ。


 だからこそ、私はある提案をした。


  「よかったら、私と付き合ってくれませんか……?」


 私の言葉に彼は戸惑っていた。


 それはそうだろう。


 最愛の人を亡くして苦しんでいる時に、その人に瓜二つの双子の妹から告白されたのだ。


 当たり前だが、彼は最初丁寧に断ってきた。


 しかし、私は続けた。


  「私、ずっと前から……初めて会った時から好きだったの……。お姉ちゃんの代わりでもいい。目の前で苦しむ貴方をもう見てられないの……」


 気づけば、私は涙ながらにそう口に出していた。


 この言葉に偽りはない。


 だって、お姉ちゃんのことは今でも大好きだ。


 彼の中でお姉ちゃんが消えてしまうのは私だって嫌なのだ。


 ただ、姉と同じように大好きな彼が苦しむ姿をもう見たくはなかったのだ。


  それに私がお姉ちゃんの立場だったら、彼のことを妹に救って欲しいと願うはずだ。


  だから、お姉ちゃんも許してくれると思った。


「少しだけ……考えさせて」


 彼はそれだけ私に告げるとその日は帰宅してしまった。


 それから返事がないまま1ヶ月が経った。


 そして——。


「僕はこれからも彼女のことを忘れることはできないだろう。それでも本当にいいのかい……?」


 私は彼の言葉に対してためらうことなく頷いた。


 そして、私たちは交際することになった。




 彼は過去に愛した人を亡くし、私にそれを重ねている。


 それは百も承知だ。


 彼は私に声をかけているようで、ここにいるはずのない昔の恋人に声をかけている。


 それもわかっている。


 私はそれでよかったはずなのに……。


 大好きな彼がこうして笑顔でいてくれることを願っていたはずなのに……。


 どうしてこんなにつらいのだろう——。


「もう秋だね……。ここの紅葉(こうよう)は本当に綺麗だ。いつか京都の紅葉も見てみたいね」


 デートで訪れた公園でベンチに座りながら隣の彼が語りかけてくる。


 あぁ……この言葉は私に向けられたものではない。


 姉に向けられた言葉なんだ。


 彼の私に対するすべての言動にそう思ってしまう。


 彼には私が見えていない。


 私には彼しか見えていないのに……。


 いつまでこの苦しみは続くのだろうか?




 私はあの日の自分の決断に日々後悔している。


 あぁ、私はなんて不幸なんだろう。


 世界で一番素敵な彼氏がいるのに毎日が不幸だ——。

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[良い点] これがあなたの思考の世界です! [気になる点] 気になる点 [一言] あなたの仕事はとても貴重です!
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