春
あぁ、私はなんて幸せなんだろう。
世界で一番素敵な彼氏がいて毎日が幸せだ——。
彼はどんなときも私が喜ぶことをしてくれる。
今日だって、彼がずっと来たかったという桜の名所に私を連れてきてくれた。
視界一面に広がる鮮やかな桃色に揺らぐ桜の木々。
春の匂いが立ち込めて、まるで私たちのことを祝福しているようだ。
そんな桜道を私たちは二人で並んで歩いている。
「もう満開だね。明野公園の桜を君と観たかったんだ」
隣でそう話す彼はどこか遠くを見つめ、そう呟くなり私に視線を向ける。
私は自分より少し高い彼を見上げ、彼の綺麗な顔をじっと見つめる。
まるで小さな子どもを見護っているかのようないつも通りの優しい笑顔。
私が大好きで愛おしく感じる彼の笑顔。
彼と今こうしていられることに私は本当に幸せを感じている。
「連れてきてくれてありがとう！ これからもたくさんの思い出を作ろうね」
私は彼の笑顔を覗き込んでそうはしゃいでみせる。
そんな私を見て、彼はまた優しく微笑んだ。
「うん、君と行きたいところがまだまだいっぱいあるんだ。夏は伊豆の海、秋は京都の名所、冬は札幌の夜景……。他にもたくさんある！」
彼は嬉しそうとそう語ると私との視線を外し、またどこか遠くを眺めるのだった。
私はこの彼からの言葉をとても嬉しく思う。
すると、春の暖かい風が桜の匂いを乗せて吹いてくる。
「んー！ 幸せだね」
思わず私はつぶやいた。
「そうだね。僕たちを祝福してくれているようだ」
「あっ、私もさっきそれ思った！」
「本当に！？ 考えることが一緒だね」
そんなことを話して私たちは互いに笑い合う。
二人でたくさん悩んだ時期もあった。
だけど、彼とじっくりと時間をかけて関係を築き上げたことでそれらを乗り越えられたと思う。
「この後、寄ってから帰ろうか」
私のこの言葉に彼はそっと頷く。
そして、私たちはある場所へと向かうのだった。
「あーー、よかった」
私は思わずつぶやいてしまう。
「桜が？」
彼は不思議そうに私に質問する。
「それもだけど……」
少し間を空けて答えた。
「他には何がよかったの？」
私の顔を覗き込んでくる彼。
思わず、その顔が好き過ぎてニヤけてしまう。
「んふっ、ひみつ！！」
私は満面の笑みでそう答えるのだった。
あの日、彼に私の想いを伝えてよかった。
そう心から思うのだった——。
私はあの日の自分の決断に日々満足している。
あぁ、私たちはなんて幸せなんだろう。
世界で一番素敵な恋人がいて毎日が幸せだ——。
