婚約破棄された聖女は自国へ戻り悠々自適に過ごす
「リーリエ・マクミラン、君との婚約は破棄させてもらう」
王立学園卒業式パーティーの最中に声高らかに宣言され、辺りはシン...と静まり返った。
渦中のリーリエ・マクミランは濡鴉のような髪の毛をつまんなさそうに弄りながら胡乱げにルビーのような紅い瞳をその人に向ける。
フィリップス・アンダーソン、この国の第三王子にしてリーリエの婚約者だ。ーーまあ、現在進行形で破棄を言い渡されているところだが。
「破棄される謂れはありませんが理由を聞かせて頂けますでしょうか?」
「決まってるだろう。僕と懇意にしているアリシアに嫉妬し影でいじめて楽しんでいたのだろう」
「それを証言する方々は?」
「そんなものアリシア自身が証言したのだから事実だろう」
「.......」
余りにも阿呆さ発言に思わず噤んだリーリエを肯定と読んだフィリップスは笑みを深めた。隣で殿下に撓垂れ掛かるふんわりとしたウェーブがかった蜂蜜色の髪の毛と桜色の瞳をした少女も歪んだ笑みを浮かべる。
「身に覚えが御座いませんが私リーリエ・マクミラン、婚約破棄を謹んでお受け致します」
礼を取り婚約破棄を了承すると途端に会場がざわつく。
しかし、パンッと乾いた音が響き渡るとまた静けさが還った。リーリエ自身が出した音によって。
「アルト神官、契約書を」
「はっ」
「なんだこれは?」
「婚約破棄の契約書ですわ。ああ、陛下の了承無しでは駄目だとお思いならご心配なく。幼少期にとある契約をしていまして、もしその内の1つでも違反があれば陛下の了承無しに破棄していいとの約束をしておりましたの」
小鳥が唄うかのように微笑みながら告げるとフィリップスは都合がいいかのようにさっさとサインを済ませたのだった。
これが自国を破滅に追いつめる結果になるとも知らずに。
サインを見届けてリーリエはアルト神官から受けとった書類に目を通し満足気に頷くと
「それでは皆さんお元気で」
と言ってパーティー会場を去ったのだった。
◇◇◇
「またあの国から救援要請来てるぞ」
「放っておけばいいんじゃないかしら?それにまだあの馬鹿第三王子の処遇を決定してないんでしょう?それまでは手を出すつもりは無いわ」
婚約破棄されたあの日、直ぐにオフィーリア神聖国ーー慣れ親しんだ国へと帰り、神殿へと戻ったリーリエを暖かく迎えてくれた。と共に王国でのリーリエへの扱いを【通信鏡】で
見ていた彼らは激怒していたのだ。彼女自身がなんとも思ってないことを告げても暫く怒りが治まらない状態だったのだから相当なものだ。
彼女リーリエ・マクミラン基、リーリエ・オフィーリアはオフィーリア国の聖女だったのだ。白銀の髪を弄りながら薄紫の瞳を細めて笑う彼女はさて、と呟きながらアルトを見遣った。
「次はどの国の瘴気を浄化すればいいかしら?」