08 差異
結婚してからは、本当になんやかんやと驚くことばかりだったのですが、
さすがにこれは……
「はい、お待たせしましたっ」
もしもし、アリシエラさん。
全然待たされていませんでしたよ。
っていうか、森を切り拓いて、お庭を拡張して、我が家を増築しちゃうってのが、
半日かからずにできちゃってるんですけど。
「申し訳ありませんっ、本当はフォリスさんが就寝中に全部やっちゃって、朝起きた時のびっくり顔を楽しみたかったのですが……」
「奥様のたってのご希望で、工事中の様子をご覧になりたいとのことでしたので」
……ご覧もなにも、奥様、びっくりして固まっちゃってるんですけど。
いや本当、あいた口がふさがる前に終わっちゃったっていうか。
「ではまずは、施工内容のご説明を」
「元々のご自宅の方には極力手を加えずにとのご要望でしたので、増築分の建物は森を切り拓いた空き地への建築となっております」
「そちらの離れとは渡り廊下にて往来する形となりますが、実はご覧になるとお分かりの通り、母屋と全く同じ構造の建物なのです」
「寸分違わぬ間取りですので、離れをご利用の際は今まで通り、まさに実家のような安心感で暮らすことが出来ますよっ」
えーとつまり、二世帯同居住宅、じゃなくて、二拠点同一住居?
確かに、使い勝手は良い、はず……
「ふむ、この場合は元になっている方が母屋なのだろうな」
「二棟とも、柱の傷まで全く同じなのだが……」
「何はともあれ、ありがとうございます、アリシエラさん」
……シュレディーケさんは、うれしそうですね。
こういうサプライズイベントへの対応力こそが、冒険者としての経験の差、なのでしょうか。
「元のおうちの良さを余すところなく活用した素敵な増築手法ですねっ」
「ありがとうございますっ、アリシエラさんっ」
……ルルナさんも、うれしそうですね。
でも、お掃除面積が寸分違わずの2倍になっちゃいましたよ。
「えーと、もしかしてご不満ですか、フォリスさん」
いえいえ、びっくりしちゃっただけで、大満足ですよ。
それにしても、さすがはアリシエラさん。
噂通りの超絶建築技術です。
まさに、 天才建築士 兼 天才魔導具技師 兼 ナイスバディネコミミメイドの真骨頂でしたね。
「ありがとうございます、フォリスさんっ」
「ところで、前々から気になっていたのですが」
なんでしょう。
「フォリスさん的には、"ナイスバディ"と"わがままボディ"との表現の差異は、どのような判別法のもとに区別されているのでしょう」
「私への"ナイスバディ"と、奥様への"わがままボディ"」
「"バディ"と"ボディ"では、具体的に何が違っているのかをお教え願いたいのですっ」
なるほど、僕も意識せずに使い分けていましたが、言われてみれば確かに……
そうですね、あえて言わせてもらえるとするなら、
"躍動感"と"重量感"の違い、とでも申しましょうか。
「ほほう」
"バディ"から感じ取れる弾けるような躍動感、
"ボディ"から感じ取れる圧倒的な重量感、
たかが語感と侮ることなかれ、眼を閉じて耳にするだけでもはっきりと分かるその確かな違い、
おふたりの肢体があたかもまぶたの裏に焼き付いているかのような。
「感服いたしましたっ、フォリスさんっ」
「さすがは我が家の皆も認めざるを得なかった、お噂以上のむっつりえっちさん!」
「この万人が納得せざるを得ない鋭い考察、ぜひモノカさんたち皆さんにもお披露目しなくてはっ」
「では、失礼しますっ」
……行っちゃったよ、アリシエラさん。
えーと、我が家の乙女たちからのまなざしが、
かつてないほどにアレなんですけど。
これぞまさに、"過ぎたるは及ばざるがごとし"
「"後悔先に立たず"では」
冷静で意味深なツッコミ、ありがとうございます、シュレディーケさん。
「"あとの祭り"ですよ、ね」
簡潔で分かりやすいツッコミ、ありがとうございます、ルルナさん。
さてと、僕は新家屋のお掃除でも……




