03 興味
「フォリス兄さま、お願いがあるの」
なんだい、ニケルちゃん。
「木登り、教えてくださいっ」
うっ、木登りですか……
困ったな、これ。
木登りの怖さを誰よりも知っている僕としては止めたいのは山々なんだけど、
子どもたちが興味を持ったことは、ちゃんと後押ししてあげたいし。
……うん、そうだよ、
こういう時は大人である僕が全力でフォローしてあげなくちゃ。
「そこの木に登っても良いですか?」
はい、僕が下で見てるから、がんばって登ってみてね。
ゆっくりで良いから、手元足元、しっかり確認しながらだよ。
「よいしょ……よいしょ……」
うん、その調子。
手をかけたらすぐに身体を動かさないで、
手を置いたところが身体を支えられそうか、
チカラをいれても大丈夫かどうかを、ちゃんと確認してから、だよ。
「はいっ……よいしょ……」
むにゅっ
「キャッ!?」
あぶないっ!
ぽふっ
うへぇ、心臓止まるかと思ったよっ。
ニケルちゃんっ、大丈夫っ?
どっか痛いとこないっ?
「穴の中……」
うん。
「指に、むにゅって……」
そっか、びっくりしちゃったんだね。
「……ごめんなさい、フォリス兄さま」
……立てるかな?
「はい」
よいしょっと。
……うん、ちょっと震えてるけど、ケガはなさそうだね。
立ってみて、身体に変なところ、ありますか。
「……大丈夫です」
本当に、良かった……
はい、まだドキドキしてると思うけど、
ちょっとだけ、手を見せてくれるかな。
「?」
ああいう木の穴には、小さな穴でも、中にいろんな生き物が暮らしていることがあります。
ねずみやへび、鳥に虫。
中には毒や病気を持ってる、危ない生き物もいます。
ここに来る前に、ヒメ湖の近くの森に住んでいる生き物のことを調べてきたけど、
特別に危ないのはいませんでした。
でも、さっきの"むにゅっ"が何だったかを調べるのは、
とっても大事なことです。
ニケルちゃんの手は、痛かったりかゆかったりしていませんか?
「大丈夫です」
よし、色が変になってたり、腫れたり、血が出たりしていませんので、
危ない生き物を触ったんじゃないようです。
ニケルちゃんは『チームニケル』の冒険者なので、
これからもいろんな冒険をすると思います。
木登りだけじゃなく、山登りやガケ登りなんかもです。
もちろん、降りるときも、ね。
そんなとき、なにが大切なのか、
ニケルちゃんなら分かってくれたと思います。
「冒険の前に、しっかりと勉強して、準備しておくこと」
「安全かどうかを注意しながら、慎重に進むこと」
「びっくりすることがあっても、あわてないこと」
「もしなにか悪いことがおきたら、それ以上悪くならないよう落ち着いて様子を見ること」
「……ですっ」
はいっ、僕が言いたかったこと、全部言われちゃいました。
木登りの授業は、満点です。
それじゃ、なにか質問、あるかな?
「えーとね、"むにゅっ"がなんだったのか、知りたいですっ」
うん、さすがは『チームニケル』リーダー!
知りたいっていう気持ちが、冒険者には何より大事だって、
シュレディーケさんも言ってました。
じゃあ、木登りチャレンジ、がんばって!
「はいっ」




