11 噂
「エルサニア王都巡回司法省本部勤務」
「準1級司法官レマリィです」
「この度はフォリスさんには重ね重ねのご迷惑をおかけしたこと、まことに申し訳ございませんっ」
はい、謝罪は受け入れますので、頼むから顔を上げてください。
ほら、ウェイトレスさんがこっちをチラ見してますよ。
ってか、巡回司法省って、喫茶コーナーにあんなにキレイなウェイトレスさんがいるんですね。
さすがはエルサニア王都本部。
きっとウェイトレス採用の競争率もハンパ無いんだろうな……
「……」
えーと、落ち着いたようですし、僕はそろそろ……
「あの、フォリスさんて、サイリさんのお知り合い……」
はい、茶飲み友達させてもらってます。
はて、どこ情報ですか、それ。
巡回司法省って、一度勾留されると、茶飲み友達までバレちゃうんですかね。
「いえ、お噂はかねがね」
あー、噂ですか。
どうせアレな噂なんでしょうね。
魔灸の森の奥深くに、ちょっとアレな狩人が住んでるとかなんとかっていう、例の噂。
「いいえ、アウド村の危機を何度も救った凄い狩人がいるっていう、冒険者ギルドでの評判を聞いてたんです」
えーと、危機ってアレのことかな。
デッカい大いのししの魔物を駆除した件とか、流れの無法者を討伐したらお尋ね者だった件とか。
別に特別なことをしてるわけじゃなくて、普通の冒険者だったら依頼されればやっちゃいますよね、それくらいのこと。
「じゃあどうして、報奨金とか懸賞金を貰わないんですか」
「いつも無償だって……」
だって僕、ただの狩人だし。
それに、冒険者の気概なんて持ってないから、かな。
肉や毛皮がほしくて大いのししの魔物を狩ることもあるし、
村に迷惑をかけてる無法者が目障りだからやっちゃうこともあるけど、
正義のためとか、社会のためとか、みんなのためとか、
そういう気概は全然ないから。
むしろ真っ当に依頼をこなしている冒険者の仕事を僕なんかが奪っちゃってるわけで。
おっと、もしかして今日の勾留理由って、それですか。
「違いますっ、えーと、何だかお噂とはずいぶん違う方なんですね、フォリスさんって」
どういう噂かは存じませんが、直接会って自分の目で確かめて判断するって重要なことだと思いますよ。
まあ、がっかりさせちゃったみたいで申し訳ないですけど。
「いえ、その、普通っていうか、普通より呑気っていうか……」
はい、正解。
レマリィさんの男を見る目を養う糧となれたことは光栄です。
では、僕はこれで。




