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宇宙人達

(寒い。ここは暗くて寒い)


目が覚めたら暗闇の中にいた。消毒薬の匂いがやたらと鼻につく。

手足を動かすとすぐに壁らしきものに当たった。冷たい金属のような何かが俺を囲っている。


(狭い箱?)


ゾクリとした恐怖が体を震わせた。


(もしかして俺は死後に息を吹き返した?のか)


このまま誰にも気づかれず火葬とかされるのだろうか。恐怖にパニックになりかけたとき足元からぼんやりとした温かさを感じた。


(?)


すっと足元のほうから引きずられたと思ったら俺は白い光のなかにいた。


「やぁまた会えたね」


影になって顔が見えないけれど優しい声に俺のことを覗き込む人のことはすぐに分かった。


「大星さん?」


「そんな不思議そうにしないで。わかるでしょう?」


頭を撫でられれば寒い日に温かいコンソメスープを飲んだときみたいにお腹の中からほっとする。からだ全体にじんわりと広がっていくぽやぽやとした安心感。


(なんだこれ?)


大星さんに助けられて上半身を起こせばそこはドラマとかで見たことのある検死に使われる金属製の台が置かれた部屋だった。


「この前はいきなりキスしてごめんね」


「あ、いえ。大丈夫です」


「人命救助のためだったから」


「人命救助」


「早川さんが言ってたでしょう。僕たちも脳を食べられてしまうって。脳を食べられた後にすぐに検死に回されてトントン拍子に通夜・葬儀・火葬となるとあきらくんが死んでしまうからさ。ちょっと多めに僕を分けなくちゃいけなくて」


トントン拍子の使い方が不謹慎な気がするんだけど大星さんが真面目な顔で説明してくれるのでツッコミが出来ない。


(そもそも脳を食べられた時点で死んでいると思うんですが?)


「あぁ。あきらくんも僕もちゃんと脳を食べられて死んじゃったんだよ。それは本当」


(ちゃんとの使い方も不穏だ)


「じゃあ。なんで今生きてるんですか?これは実は夢?死後の世界?え、まだ二人芝居の続きだとか?」


「うんうん。ちゃんと生きてるからね。僕のお話聞いてくれる?」


「はい」


「えーっとね。僕はっていうか僕も宇宙人です。もともとは地球人。人間だけど宇宙人と合体したって言い方のほうがわかりやすいかな。ある日宇宙人の細胞をもらって進化したんだけど、ついてこれてる?」


「大星さんが宇宙人」


「うん。理解してくれるとうれしいな」


「いつからですか?」


「ここ半年くらい?」


「3年前に舞台でご一緒したときは?」


「人間でした」


「今は?」


「宇宙人に進化しました」


「……大星さんは死んじゃったんですか?」


やさしくてがんばり屋さんの大星さんは皆に優しくて。俺みたいなちょい役俳優にも声をかけてくれる人で。


その人を……


すぅっと指先から冷たい何かが俺の身体にまとわりついてくる。


(じゃあこの人はだれなんだ?)


体中の毛が逆立っていくのは恐怖からじゃない。


(殺した?大星さんの中に入っている何かが大星さんを殺した?)


暴れだしそうな気持ちを抱えているのにそれと同じだけ感情を鈍らせる何かが俺の中にある。


(マイナス感情を無理やりポジティブに引っ張られるような)


「死んでない死んでない死んでないよ!!!まってまってそんな怖い顔しちゃダメ!!怖いからやめて。嫌わないで。悲しくなっちゃうから怖い顔しちゃダメ。大丈夫だから大丈夫だから」


大星さんが俺に飛びついてきてぎゅうぎゅうと抱きしめられた。


ちりちりとうなじが電気を放ちそうなほどだった怒りと殺気がおさまっていく。

大星さんに触れられたところから春の日差しのようなまどろみに引きずり込まれそうになる。


「ごめんねおどろかせて。宇宙人と合体したからといって前の自分が死んだりはしてないんだ。宇宙人がくれたのはとっても丈夫な身体と平和主義。元の記憶とかも残ってるでしょ?ね?ほら、自己紹介してみて」


そおっと体を離される。

笑顔で自己紹介を促してくる大星さんは参観日の親のような顔をしている。

上手にできるかな?って。

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