禁断の果実
「禁断の果実って?」
「それはですねぇ。ぐふん。わたしたちがなぜここにいるのかという話になります。ぐふ」
早川さんは直接大星さんを見るのは眩しすぎるのかやたらとまばたきをしながら話を始めた。オタク特有の熱量のある早口だ。
ぐふぐふ言うときに手で口を抑えるのは彼女の癖なんだろうか。
「ここに私たちをつれてきたのは宇宙人です。ぐふ。嘘でも冗談でもありません。彼らは地球にたどり着く前は他の星を侵略しながら宇宙をわたってきました。ぐふふ」
何がそんなに楽しいのか早川さんは笑いを止めない。言葉もとめない。
「暗くて広い宇宙。そこを漂ってきた彼らには娯楽という概念がなかった。地球に来て彼らがたまたま人間の頭にたどり着いた時それはそれは驚きました。日本の世界に誇るポップカルチャー!! クールジャパン!!語られてない物語はないというほど多岐にわたる漫画が特にお気に入りでして。初代クイーンは少女漫画。それから次代は少年漫画。さらに青年漫画。ホラー。SF。ゆるふわエッセイ漫画。等々クイーンたちは世代交代の度に様々なジャンルに舌鼓を打ってきました。」
興が乗ってきたのか天をあおぎ目をかっぴらいて手を広げて演説を打つ早川さんは人間離れした雰囲気を醸し出す。普段ならかかわり合いたくないから見かけたらそこの交差点手前で曲がっちゃう宗教系街頭演説の人ににていた。
本当は話しかけるのも憚られる感じだけど聞き逃せない単語に俺はいやいやながらも話を遮る。大星さんは俺の隣で存在を消している。
「ちょちょちょっと待って舌鼓?って言った?」
(いい間違いではなく?)
「ええ。宇宙人は我々人類の脳を食べることで娯楽を摂取します。」
嫌な予想が当たった。
「普通に本を読んでくれないの?」
「残念ながら彼らは大変小さいので脳細胞を消化吸収することで直接キメタイそうです。」
「そんな違法薬物みたいな言い方」
「実際彼らにとっては化学物質を出す脳は違法ドラッグみたいなものでしてなぜそんなことになるのかはわたしにも分かりません。私はクイーンにそういわれただけなので。」
「そのクイーンって誰?何してるの?」
「分かりやすいたとえだと宇宙人女王蜂って感じでしょうか。巣の中にいる最高峰の存在にして母。彼女なくして巣の蜂は生きていけない。彼女のために全ての蜂は尽くす。これは地球の蜂の話ですが特別なエサ、ローヤルゼリーを与えられるかどうかそれが普通の蜂になるか女王になるのか分岐点です。興味深いでしょう?食べ物が違うだけで産卵という生き物のメスにとって最重要の役割をこなせるかいなか変わってしまう。私たちは人間ですから蜂のようにはいきませんが口にするものは気を配らないといけませんよね」
そこで早川さんは俺たちを向いてニンマリと笑った。口が横に大きく引っ張られた笑いは不思議の国のアリスに出てくるチェシャネコを思わせた。