スター登場
「あきらくん?だよね?」
そう言って俺のことを見つめるのは三年前舞台の仕事でお世話になった俳優の大星隼人さんだった。
一緒に舞台をした頃はまだまだ無名だったのにあれよあれよというまに若手ミュージカルスターとして引く手あまたになった有名人がそこにいた。一般人に紛れるには到底無理な高い顔面偏差値で今日もキラキラしている彼は俺に駆け寄ってきた。
「良かった。元気そうだね」
「大星さんもお元気そうで良かったです」
よくわからない状況の中知り合いに会えるとホッとする。相手がイケメンで尊敬できる先輩となればなおさらだ。俺は嬉しくておもわず大星さんの手をとった。
見つめ合う大星さんと俺の後ろで「ぐぅっ!!はぁ!!おぉぉぉ!!」と発している早川さんは確認するまでもなく元気である。
「最推しが!!推しと!!待ってムリムリムリムリーわたしと同じ空気を!!」
先程より呼吸が荒い様子から早川さんは大星さんのことが大好きなんだと俺は察した。
「あきらくん、彼女大丈夫かな?」
明らかに不審者なのに気遣ってあげる大星さんは人間ができている。
(やっぱりスターになる人は気遣いが違うな)
チベットスナギツネになりつつおれは早川さんのことを説明してあげた。
「早川さんとおっしゃるんですがどうやら俺のことも知ってたみたいですし、舞台とかアニメファンの方みたいですよ」
腐っていることまでは伝えないのは俺の武士の情けというものだ。
「はぁー尊い!!はーたそとあーたそが見つめ合って。談笑。やっぱりオフでも仲良しの鎌足たん♪」
(いやこれ俺が言わなくてもすぐバレるやつだな)
「まようなぁ♪どっちがみぎ?どっちがひーだりー?どっちも大丈夫♪リバでもオッケー♪私の愛は深いのよーふんぬふーん」
(……歌い出した)
怖いもの見たさで振り向く。残念の極みをひた走る早川さんは指ハートを作ってもじもじしている。時折俺たちの方をうかがっているとおもったら狐のような形を指で作ってチュッチュッとキスをさせて「きゃはぁ」だと。
姉の奇妙な行動に慣れている俺には早川さんの奇行も大したダメージではない。だが大星さんは大丈夫だろうか?
そっと大星さんの様子をうかがうと目を点にして固まっていた。
(お気持ち察します)
初見には濃度がツヨツヨすぎるってやつだ。
大星さんは見てはならないものを見てしまった顔をしていた。
(でも口角は上がったままなのがプロだなぁ)
「あきらくんはどうしてここにいるんだい?」
「気がついたらこの部屋の入り口でして白い防護服着た人に押し込められました」
「君も?僕もなんだよね。ドッキリかなーと思ったけどカメラも見当たらないし」
「部屋に入ったら早川さんが居て。状況を整理しようとしていたら大星さんが登場したという感じです」
「この部屋。入り口は一つしかないんだね」
「何も置いてませんし。どうなるんでしょう?」
「食べられちゃいまーす。ぺろりんちょ」
早川さんの言葉に俺と大星さんがぎょっとする。
「私達は禁断の果実なのですよ♪」
とっても楽しそうな早川さんの言葉に狂気を感じたのは俺だけじゃなかったと思う。